ブラジルにカシャーサというサトウキビからつくる蒸留酒がある。安価に酔える酒で、主に国内で庶民に飲まれてきた。ところが近年、伝統的な製法でごく少量生産されるカシャーサに、世界から熱い視線がそそがれるようになってきている。今回は、伝統的な製法で造られたカシャーサを日本にも広めようと、ボランティアで普及活動に取り組んでいる森戸律子さんにその魅力をお書きいただいた。
カシャーサのもうひとつの顔
アーティザン・カシャーサ
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長く門外不出の酒であったアーティザン・カシャーサ(芸術的なカシャーサ)が、近年、脚光を浴びるようになってきた。もともとは田舎でつくられ、飲まれていた酒で、都会から遊びにきた親類や友人が手土産に持ち帰ったのがそもそもの始まりであったという。
現在、都会では、カシャーサは、もっぱらカイピリーニャというミックスドリンクで飲まれている。グラスにライムと砂糖を混ぜ、たっぷりの氷をいれた後、「51」とか「イピオカ(ypioca)」という銘柄のインダストリー(工場生産)カシャーサを足してつくるカクテルである。
これに慣れ親しみ、この「51」や「ypioca」だけをカシャーサと思い込んでしまうのが大半であって、カシャーサにもうひとつの顔があることはあまり知られていない。それこそブラジル国中いたるところに散らばる、小さな蒸留所から産出される手作り(アーティザン)カシャーサがあることを……。
伝統的なカシャーサの製法
国で定めた定義では、「カシャーサとはブラジルで産出されたサトウキビを原料とした蒸留酒で、アルコール度数が38〜54度。サトウキビ(汁)を醗酵させた蒸留酒で、製品の一Lに対し六gまで加糖したものも含める」というもの。だが、これに対しアーティザン・カシャーサの主産地であるミナスジェライス州の州法では独自の「アーティザン・カシャーサの製造工程」を厳しく定め、「原料として砂糖、化学触媒などの添加物は一切使用しない」とうたっている。
この二種のカシャーサについての違いを整理したのが図表1である。両者の味の違いは、蒸留後瓶詰めした透明の酒にすでに顕著である。インダストリー(以後カシャーサ省略)がサトウキビの香りらしさをわずかに残した透明で個性のない酒であるのに対し、アーティザンは各蒸留所によってかなり個性の異なる味わいをもつ。この違いは、搾汁の新鮮さ、原料の種類や処理方法、醗酵にかける時間、蒸留釜の材質(銅釜を使用するかどうか)、蒸留方法の違い(単式蒸留か連続式蒸留か)などによるものだ。
また、アーティザンの中には蒸留後にタンク、あるいは木の桶で休ませるという過程を踏むこともある。蒸留したての酒はアルコール臭が先に鼻につき口当たりが荒っぽいため、色のつかない木の樽(Jequitiba=ジュケチバなど)で一年ほど休ませ、それから瓶詰めする。樽で熟成させるケースも多い。以前はヨーロッパから輸入されたオーク樽を使用していたが近頃ではブラジルの特産木で樽をつくり、さまざまな味わいを醸し出している。なかには六種の熟成酒のブレンドを売りにしている蒸留所もあり、まだまだ探せばいろいろな試みをしている蒸留所もありそうだ。いずれにしろ、熟成はアーティザンの大きな特徴の一つである。
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