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本格焼酎の産地呼称を考える
産地を縦軸に原料製法を横軸に
 こうした考え方を本格焼酎の表示にも取り入れて考えてみたのが図表6である。すべての焼酎乙類をこのモデルの中に取り込んでい けるのがポイントだと考える。
 鍵は、県や地域、市町村名だけで原料名を付さずに本格と名乗ることに価値観を持たせることにある。
 熊本県を例にして考えてみよう。「本格球磨焼酎=米と決定した」とした場合は、球磨地方で造られる本格焼酎で、単に地域名もし くは市町村名を付した表記のもの(本格球磨焼酎、本格球磨人吉焼酎など)はすべて米焼酎しか使えないこととする。他の原料の場合 は、より広域概念の本格熊本焼酎もしくは、産地を名乗らずに単に本格焼酎としか名乗らないこととする。
 この制限は球磨地方のメーカーだけが受けるものであり、天草や平野部はまた別に考えていくことができるようにする。また、より 狭い区分の場合には、当事者の取り決めによって製法や原料まで絞ることも可能である。たとえば、本格球磨川辺村焼酎の場合は、す べて球磨盆地内で採れた米を原料に使いカメ仕込みで製造して二年以上熟成したものとするなどである。こうすることで産地全体とし ての評価を高めていくのである。
 この結果ひとつのメーカーで製造したものの中でも、カテゴリーは本格球磨川辺村焼酎、本格球磨焼酎、本格熊本麦焼酎、単に本格焼 酎、乙類焼酎などさまざまになってくる。これはあくまで出自・製法を規定するものであり、価格の高低は別の次元で判断すればよい。 名乗ることに意味のない場合はより大きなカテゴリーで止めておけばよいわけである。この体系であれば、実際に現在もっとも多く飲 まれているスタンダードな本格焼酎もすべてを大分類のどこかに網羅できる。このベース部分の名称をきちんと整備していくことがも っとも大切なことかもしれない。海外に焼酎が普及し、外国産の安い焼酎が輸入できるようになってからでは手遅れである。

呼称制度は海外進出のため
 そもそもなぜ原産地や原料についての呼称問題に取り組むことが必要なのかをここで再確認しておきたい。それは価格以外のベネフ ィットを持った酒として産地外に市場を広げたいからのはずだ。その商品の情報が豊富にあり、毎日飲んでいる市場だけを相手にする のであれば、このような体系は必要ではない。
 フランスワインが精緻な体系を組み立てたのも、フランス料理という食文化とそれを洗練させていく上流階級が想定顧客としてあっ たからだ。さらに料理という食文化とともに海外への輸出を考えた結果、より詳細になっていった。「このワインはフランスで造られ たから価値がある」「同じ品種のぶどうからできたワインでも、この村で収穫されたものだから価値がある」というロジックを精緻に 構築する必要性があったのだ。
 本格焼酎も事情は同様だと思う。今後深耕すべき市場は首都圏など遠隔地にあり、その延長上に海外のマーケットがある。既に首都 圏市場では、いくつかの銘柄が幻の酒として珍重されているが、そのままでは単に各企業毎の商品別マーケティング政策の成功がある だけで、いつ足元が崩れるかわからない危ういものである。
 いままでは、これを補強するためにスペックの優位性を追求するものが多かった。日本酒における精米歩合、スコッチにおける熟成 年数の表示が代表格である。この方式は数値化されてわかりやすいが、メーカーや産地の個性を示すものにはならない。数値化された データに頼ると、メーカーの商品開発の自由度を縛ることになり嗜好品のマーケティングとしてはおもしろくなくなる。コニャックの グレード表示(VSO、VSOP、ナポレオン、XO等)はその違いを表現上は幅を持たせ曖昧にしたままであるが、飲んでみればす ぐわかる。このように作り手が自分の名誉と技術にかけてグレードを生み出していくという考え方はぜひ見習いたいものである。

焼酎の海外展開を急ぐ理由
 海外の市場を意識する必要があるもうひとつの理由は、言葉の国際化である。清酒は英語でも「サケ」ということで確立しているが、 焼酎は「ソチュー」と呼ばれていることが多い。これは日本よりも先に韓国焼酎がアメリカに輸出され、市場での認知が進んでいるか らである。
 このままでいくと、世界で通用するカテゴリー名は「ショウチュウ」ではなくて「ソチュウ」になる可能性が高い。しかし韓国には 単式蒸留器で造る乙類焼酎はないのである。焼酎=「ソチュウ」と確立した後で、本格焼酎を持ち出しても商品価値を浸透させるには 非常に時間がかかる。なまじ同じ焼酎というカテゴリー名を使っていることが足かせになりかねない。
 このことは、甲類焼酎にとっても同様で、韓国焼酎のような甘味が酒税法上付加できない以上、厳しいことになると思う。
 日本の本格焼酎は、さまざまな原料を使い、その特性が最終製品に反映される蒸留酒であり、それを単一カテゴリーで扱うという世界 でも稀有な酒なのである。
 飲用シーンから見ても、蒸留酒でありながら食中酒が中心で、しかも新酒でもおいしく飲めたり、お湯割り、水割りと多彩な飲み方 が伝統的に存在する。欧米の酒文化では非常に理解しにくいものなのではないだろうか。だからこそ、外国人にも理解しやすい分類体系、価値体系を作り啓蒙を進めていく必要があるのだ。

月刊酒文化 2002年 11月

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