ヴァッハウ渓谷
ドナウ川流域のデュルンシュタインには一二世紀イギリスのリチャード王が幽閉されていた城跡がある。前回は行くことが出来なかったが、こんな噂を耳にした。「デュルンシ
ュタインにウイスキーがある」というのだ。
この噂を確かめるためウイーン在住の友人にこの地にすむ人を紹介してくれるように頼んでおいた。「事情を知る人がいるから会いに行こう」と連絡があったのは日本を出る少し前のことだった。せっかくデュルンシュタインまで行くなら、ついでに川下りをしようとその友人を誘いメルクまで列車で行き、そこで遊覧船に乗り換えた。川からの眺めは葡萄畑が斜面に続き、所々に古い城壁のあとが見える。 教会らしき建物も散見されるが立派なもの、建設途中で放り出されたようなものもある。両岸の景色に見とれている間に船はデュルンシュタインへと着いた。石畳の道を高台へと登っていくとそこは中世の町そのものだった。狭い道の両側は家が軒を並べ土産物店やレストラン、ホテルがある。そんな狭い路地の奥にベルツさんの家はあった。早速ここにウイスキーがあるという噂を話し真偽のほどを聞いてみた。第三次十字軍遠征の帰途、イギリスのリチャード獅子心王はオーストリアのレオポルド王の怒りにふれ、1192〜93年にかけデュルンシュタイン城に幽閉されてしまう。 といっても身代金が届く間のことで自由にこの町を歩き、ワインを飲みリキュールを楽しんでいたようだ。そんなとき祖国イギリスのウイスキーを飲みたくなったのだという。ウイスキーを探したが有るはずもない。そこで10世紀くらいより庶民の間で造られていた小麦の蒸留酒(パーリンカのようなもの)をワイン樽に入れしばらくおいてから飲んでみたそうだ。この話は伝説のようなもので今では真偽を確かめるすべはないが(私は少なからず疑問を持っているのだが)、この地の人々はこの話を事実として信じている。そのとき造られたものがそっくり同じ方法で今も造られているのだという。ベルツさんの地下室には樽が数本並んでいた。少し飲ませてもらった。色はわずかに琥珀色が着いている程度だがウイスキーといわれればそんな気もする。口に含むとかすかに樽の香りがして結構いける。こんな酒もあるのだと良い経験をさせてもらった。
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