吟醸酒と「くまもと酵母」

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 9月10日に東京で日本酒の振興を図る有志グループSAKE2020は、「日本酒ヒストリア”近現代史を探る 惷秕酒質の確立〜9号酵母と熊本の酒』」と題して、熊本酵母にフォーカスしたワークショップが開催しました。背景には「飲んで応援、行って応援、熊本から買って応援」のメッセージの発信の意図があります。

写真:熊本酵母を生んだ株式会社熊本酒類研究所が醸す『香露』。今も高い人気を誇る。

 第1部のレクチャーでは、日本酒ジャーナリストの松崎晴雄さんが、吟醸酒づくりに欠かせない「きょうかい9号」「熊本酵母(熊本県酒造研究所:酒銘「香露」)」の歴史と功績を紐解きます。
 温暖で酒が腐造しやすかった熊本では、江戸期まで藩政府は清酒づくりを許しませんでした。そのため清酒の後進地となった熊本が、明治・大正期に吟醸酒のメッカに変わる話は、これまでいくつもの書籍で採りあげられたところです。松崎さんはそこに自身のきき酒経験を被せて、東日本での吟醸酒づくりにこの酵母が広がっていった時代を振り返ります。
 1980年ごろから大量生産優先の酒づくりが批判され、各地でひっそりと品質を追求していた地酒を発掘する動きが地酒ブームとなり、1990年ごろには吟醸酒ブームに変わっていきます。それまで西日本では吟醸酒づくりに熊本酵母がよく使われていましたが、東日本ではきょうかい10号酵母で仕込む端麗辛口で香りの高いスタイル主流でした。
 松崎さんは各地の吟醸酒コンクールでのきき酒体験から、東日本では1990年ごろから東日本でも熊本酵母が広がり始めたと言います。仙台でのコンテストで山形の『初孫』『麓井』『上喜元』の吟醸酒を試した時に、分厚くふくらみのある味わいと高い香りの熊本酵母らしいスタイルの吟醸酒を感じ、他と異質で大変目立っていたと指摘、それから東日本にこの酵母を使う蔵が急増し、吟醸酒イコール熊本酵母になっていったと言います。
 その後、吟醸酒づくりのレベルが着々と向上して全国新酒鑑評会での金賞受賞数は年々増加、秋田、静岡、長野などで開発された新しい酵母が好成績を上げて、酵母の開発競争になりました。
 熊本酵母は今も銘酒『香露』を醸す株式会社熊本酒類研究所が培養し、広く頒布しています。日本醸造協会も「きょうかい9号」としてこの酵母を販売し、全国各地の酒蔵が活用しています。4月の熊本地震では同蔵にも煙突が倒れるなどの大きな被害があり、熊本酵母の存続が危ぶまれたのですが、2重3重の安全策が施され盤石の危機管理体制があったため事なきを得ました。この催しでは震災直後に『香露』を訪ね、その後もやり取りを続けている、雑誌『dancyu」の神吉さんが現状を報告して、継続的な支援を訴えました。

 続く第2部は熊本酵母を使った酒や熊本独自の赤酒の試飲、熊本縁の膳で懇親会と盛りだくさん。赤酒も製造する瑞鷹の吉村照明さんの赤酒の説明には皆興味津々でした。弊社の山田聡昭も参加し、この「飲んで応援くまもとの酒」企画をもしっかりアピールしました。

【おまけ】
熊本の吟醸酒づくりについて、温暖な九州だからこそ確立された高温糖化酛など、より詳しい話はこちらがおすすめ。『醸造協会雑誌』に香露の故萱嶋昭二先生が寄稿された論稿です。醸造協会雑誌』に香露の故萱嶋昭二先生

熊本酵母が確立した吟醸酒づくりを自らのきき酒体験を重ねて解説して松崎春雄さん。
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グルメ雑誌『dancyu』の編集部の神吉佳奈子さん。熊本酒類研究所の被災状況を報告した。
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熊本酵母を使たお酒を取り揃えて飲み比べ。
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2016年09月25日