吟醸酒づくりの至宝「熊本酵母」を守る熊本酒造研究所

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熊本地方を震央とする熊本地震では、熊本市から阿蘇、さらに大分にかけて甚大な被害がありました。今、被災地では復興に向けたくましく前進しようとする動きが活発です。
このコーナーでは熊本の酒蔵・料飲店・酒販店などの頑張る姿や、各地で広がる支援活動をお知らせしていきます。

写真:吟醸酒の歴史に『香露』の名前は燦然と輝く

熊本酒造研究所と聞くとほとんどの方が公的な研究機関と思うのではないでしょうか。この会社は研究開発の拠点とすべく熊本の酒造家たちが出資してつくったもので、『香露』という銘柄の酒を醸す酒蔵であり、また吟醸酒づくりに欠かせない「熊本酵母」(「きょうかい9号」はこの酵母の同じもの)を培養し、熊本県の酒蔵などに頒布しています。
 熊本では江戸期には清酒づくりが禁じられ、代わりに発酵途中で醪に木灰を投入してつくる赤酒がさかんにつくられました。味醂のようにとろりとした甘い酒で、今は正月には香草を加えて屠蘇にいただいたり、上品な甘みの料理酒として用いられたりしています。
 明治になって清酒づくりが許されますが、経験のない熊本の酒蔵はなかなかうまくできず、他県から流入する清酒に市場を奪われていきます。このとき熊本の酒造家たちは研究所を立ち上げ、のちに酒の神様と称される野白金一氏を招聘、清酒づくりの技術レベルの引き上げに全力を傾けました。その結果、熊本は清酒の全国コンテストでトップをとるなど躍進し、清酒後進地の汚名を返上、吟醸づくりのトップランナーとして全国にその名を轟かせます。
 今回の震災では熊本酒造研究所にも大きな被害がありました。蔵の躯体が歪み、シンボルだったレンガ造りの煙突が倒壊、製品も相当量が破損しました。それでも「熊本酵母」は無事でした。万一に備えて培養室は蔵でもっとも安全な場所に設け、さらに乾燥酵母を保管するなど、二重三重の危機管理体制を構築していたからです。
 「熊本酵母」を生み出したこの蔵の酒『香露』は、華やかな香りと厚みのある味わいが特徴。吟醸酒ファンにはその味わいとバックボーンから、別格の酒とリスペクトする人が少なくありません。今、あらためて味わいたい酒です。

【連絡先】
所在地:熊本県熊本市中央区島崎1-7-20
TEL:096-352-4921
WEBサイト

培養した「熊本酵母」を試験管に取り分け綿栓し頭を焼いて滅菌する。(2003年撮影)
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純粋培養した酵母を取り出すのは蔵人の仕事だ。(2003年撮影)
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長く同研究所を率いた故萱嶋昭二さん。「熊本酵母」のアンプルを手に酒造りの話が止まらなかった。(2003年撮影)
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酒蔵のシンボルだったレンガの煙突は熊本地震で倒壊した。(2003年撮影)
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蔵の中に「野白式天窓」を説明する張り紙があった。野白金一氏が考案したもので麹室の温湿度の調整のために通気用の天窓を設けた。(2003年撮影)
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蔵の中で見かけた標語。厳しい規律が伝わってくる。(2003年12月撮影)
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震災後の熊本酒造研究所。レンガの煙突はもうない。(2016年6月撮影)
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2016年10月01日