くまもと酒蔵再訪―『瑞鷹』

『瑞鷹』の清酒づくりをリードする吉村謙太郎常務
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 6月に訪ねた『瑞鷹』を昨年末に再訪し、今期の酒づくりについてお話を伺いました。まもなく震災から一年です。何がどこまで復旧し、被災された方々は今は何を考えているのでしょうか。

■目指すは「筋肉質な酒蔵」
瑞鷹株式会社(熊本市南区川尻)
●余震・大雨で被害が拡大
 同社の吉村圭四郎副社長からいただいた「熊本地震のつめあと」には、昨年11月18日までの同社の被害の全貌がコンパクトにまとめられていました。
 《被害状況》
 ・約100棟の建物の7割近くに被害
 ・木造・土蔵の大型の建物は14棟が全・半壊
 ・貯蔵中の原酒は一部使用不能、破棄
 ・諸々の損壊により現在も一部商品の製造不能
 被害総額は復旧方法にもよりますが、年商を超える額となるのは確実とのこと。さらに製品の損失は一升瓶換算で78,000本を超え、欠品などによる大口顧客の流出が発生したといいます。建造物の被害は4000回を超える余震と、度重なる大雨で拡大、地震直後には半壊と思われたものが全壊するなど、厳しい状態が続いています。
 それでも昨夏お伝えしたように2か月後には、熊本の伝統酒で高級料理酒として人気の『赤酒』の出荷再開にこぎつけました。10月には今期の清酒のつくりもスタート、吉村謙太郎専務によると、まだ設備や建物は復旧していないながら、前年並みの製造を予定しているそうです。近年、精力的に取り組んできた、自然な農法で栽培した米での酒づくりの路線を継続し、特定名称酒の比率をさらに高めていこうとしています。瑞鷹の製造石数は現在は約1500石で、純米酒・吟醸酒が5割、本醸造酒を加えると2/3を占めます。すでに糖類添加の普通酒は全廃し、地元の上撰ニーズに応えつつ、もう一歩、上級酒にシフトしつつあります。

●全体最適を図る好機に
 鉄筋コンクリート4階建ての頑丈な清酒蔵は、今回の地震でもほとんど被害はありませんでした。これを活かして純米酒・吟醸酒を大きく伸ばしたいところです。しかし、かつて8000石つくった大きな設備で上級酒をつくるのは難しく、なかなか生かしきれません。
 謙太郎専務はこれがたいへん歯がゆそうでした。「震災を機にこれまでの清酒づくりを刷新して一から出直すくらいの気持ちでした。でも、看板商品の『赤酒』を待っている人が全国にいらっしゃるので、その製造復旧は最優先です。地震の2か月後に出荷を再開できたのは本当によかったのですが、清酒づくりを一新するところまで手が回りませんでした。今、うちの清酒製造工程は、1階の精米工場からエレベーターで4階まで上げて洗米して蒸したら、また1階に降ろして別棟の麹室に運びます。こうした作業導線の悪さを整理したい。また、麹室のある木造の建物は無事だったのですが、地震で隙間ができたようで、つくりを始めてみると室温が上がらず修理が必要になりました。鉄筋の蔵も床にゆがみが出てところどころ水たまりができます。見えないところにいろいろ不具合があり、その都度対応が必要になっています」。
 半世紀前、清酒の需要が急増した時代には多くの酒蔵が増産のために大きな仕込みの設備を導入しました。増築を重ねた結果、迷路のようになった酒蔵をいくつも見ました。30年前に消費が減少に転じてからは上級酒への対応を迫られました。タンクはたくさんあるけれど、温度管理をしやすい小さなタンクが足りなくなります。市場が変化して既存の設備や組織との間にずれが生じ、これを修正しようと対策を講じていくうちに、全体として効率を落としてしまうことはよくあります。自然災害などで通常の環境が失われると、そうした部分で真っ先に不具合が現れます。年商を超える規模の被害があった瑞鷹、今、どのように優先順位をつけ、何を決断するのかは極めて重大な経営判断です。
 圭四郎副社長が『季刊くまもと』に寄稿された「土蔵造りの酒蔵崩壊に直面して」の最後には、「これからはハード、ソフトの両面で長年の蓄積によりややもすると肥満していた会社の体質が地震でそぎ落とされ、この機会に高品質で効率的な筋肉質に生まれ変わっていくようにと考えています」とあり、続けて「復興への道のりは長く遥かなものがありますが、被災に関連して辞めた社員は皆無で、全社員一丸となって、次には災害に強い会社を目指して進んでいるところです」と結ばれています。同社の新たな飛躍を祈念いたします。

木造・土蔵の大きな建物は余震・大雨で被害が拡大
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鉄筋コンクリートの酒蔵はほぼ無傷で残った
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無傷に見えた鉄筋の蔵も床に水たまりができるなど微妙な狂いが生じた
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今期のつくりも予定通りスタート。精米機がフル稼働していた
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瑞鷹株式会社(川尻本蔵)
熊本市南区川尻四丁目6番67号
TEL 096-357-9671
http://www.zuiyo.co.jp/
2017年03月04日