一升瓶の新たな可能性

黒澤久美子

 「マグナム」といえば、ワインやシャンパンを思い起こす方が多いでしょう。ご存知のとおり通常のワインの容量は750mlで、その2倍の量、1.5Lのサイズがマグナムです。このマグナムボトル、容量は2倍でも、瓶の口径は変わりません。容量に対して空気と触れる面積が少ないため、ゆっくりと時間をかけて熟成していくのが特徴です。このため、良いヴィンテージのみマグナムボトルに詰めるワイナリーも多く、大容量ではありますがそれ以上に高いプライスが付く場合もあります。
 私が駐在しているロサンゼルスの地元の方は、日本酒についてもマグナムという呼び方を使います。彼らは、一升瓶のことをそう呼んでいるのです。
 日本市場でも同じような傾向ですが、米国でも日本酒の容量別売上において一升瓶の占める割合は、じわじわと減ってきているのが実情です。昨今の円高により製品の価格も上がっていますし、720ml製品よりも手ごろな価格・サイズということで、300ml製品の販売数量の増加がここ数年は特に目立っています。弊社の昨年一年の米国向け出荷本数における一升瓶の比率は12%に過ぎません。
 しかし、一部の米国市場では、少々事情が変わってきます。ロサンゼルスのダウンタウンにある、焼き鳥の名店、Kokekokko。カウンター、テーブル合せて65席の中規模店で、今年創業25年を迎える老舗であり、レギュラー(常連さん)の8割以上は地元のアメリカ人です。レギュラーは店主がわざわざ特注して日本で作った自分の名入りの皿を持っており、それに焼き鳥を載せて食べるのです。ボトルキープではなくプレートキープですね。彼らは一般的なアメリカ人なら敬遠してしまう部位、たとえば、ハツや砂肝、レバーといった内臓系も大好物な、筋金入りの焼き鳥マニアです。
 そして、多くのレギュラーが焼き鳥に合わせるアルコールは、もちろん日本酒。それを彼らは一升瓶でオーダーするのです。
「Hakkaisan, Magnum, please!」
 こちらのお店では八海山の純米吟醸を取り扱っていただいていますが、一升瓶の売上本数は月25本程度。このうち半分は、杯売りではなく一升瓶での販売なのです。一銘柄で一升瓶を月20本以上売るというのは、大人気といってもいいでしょう。
 多くのアメリカ人は、日本酒を一升瓶なり四合瓶なりのボトルでオーダーします。カリフォルニアはワインカントリーでもあることから、お酒はボトルで頼むもの、という感覚なのでしょう。また、彼らは総じてお酒が強いのです。体質的にアルコール分解力が違うということもあるとは思いますが、とにかくたくさん召し上がります。二人で食事に行って、ボトルを赤白1本ずつ、なんていうのはよくあるシーンです。また、二人で一升瓶を一晩で飲みきってしまう強者もざらにいます。
 お酒のたしなみ方も独特です。欧米ではお酌文化が無いと言われていますが、レギュラーは、店に入ると顔見知りのレギュラーに挨拶し、ハグし、自分の酒を相手にふるまうのです。ふるまわれた方も、自分の好みの銘柄をふるまい返します。そういった社交のツールとしても、一升瓶のサイズが役立っているのではないでしょうか。
 一升瓶がカウンターの上にどっしり載っている姿は、彼らにとってとてもインパクトが強いものであり、別のお客様がそれを見て興味を持ち、真似をする姿もよく見かけます。
 店主も、一升瓶のオーダーに関しては期限付きですがボトルキープをしており、このことも、一升瓶を購入するお客様の心理的な負担を軽減している一つの要素だと思います。
 ロサンゼルスでは、Kokekokko以外にも、Honda-yaなどの若者に人気のある居酒屋も一升瓶での販売を行っており、居酒屋のジャンルでは一升瓶の存在感が増している傾向にあると感じます。
 価格の設定方法にもよりますが、一升瓶での販売は、お店側にとっては、
|渦舛高く売上に貢献する
売り切りのため品質管理が楽でロスの心配がない
といったメリットがあります。
 在庫管理や、冷蔵庫のスペース問題もあり、すべての日本食業態での展開は現実的でないかもしれませんが、ここ西海岸から、日本酒の新しい楽しみ方として、「マグナムカルチャー」を広げていきたいと思っています。
(くろさわくみこ・八海醸造株式会社・http://www.hakkaisan.com/:ロサンゼルス在住)

月刊 酒文化2012年04月号掲載