求められるSAKE普及の組織づくり

 2010年の調査では、アメリカ国内の日本食レストランの数は1万4129軒でした。2000年の同じ調査では5988軒だったので、10年間で2.5倍近く増えていることになります。私が駐在している西海岸でも、日本食の人気がますます高まっていることを肌で感じます。もちろんアメリカでも食とアルコールを合わせる文化があり、日本食レストランが増えるのに伴い日本酒を楽しむ人の数も増え、アメリカ人の日本酒ファン(もっというと日本酒オタク:Sake Geek)もかなりの勢いで増加しています。
 2008年から駐在していますが、ここ1、2年は日本人以外の日本食レストランオーナーからの日本酒のメニュー案やサービス案に関する問い合わせが増えています。西海岸では、新しくオープンする日本食レストランで日本人が経営している店は10軒に1軒程度しかなく、日本酒について深い知識を持たないオーナーが多くいます。それでもメニュー案に関しては、日本のバラエティに富んだ地域性を活かしたメニューや、逆に特定の地域(たとえば東北)にフォーカスしたメニューの要望などを現場で聞くことが増えてきました。
 ご存知のとおり、米国ではアルコールの販売に関しては、インポーター、ディストリビュータ、レストランそれぞれにライセンスの確認が必要となるため、八海山をはじめ多くの蔵元がディストリビュータを通じてレストランに製品を販売しています。そのため販売に際して、個別の銘柄、地域性、製品の特長などについての説明は行われていますが、歴史、文化も含めた情報は簡単に得られません。
 畑違いではありますが、私が住むカリフォルニアにはThe California Avocado Society(CAS)というNPOが存在します。1915年創設の団体で、アボカドの生産者、市場、消費者をつなぎ、継続的なマーケティング活動を行い、市場の育成に努めています。また、カリフォルニア以外の世界のアボカド生産地からdirectorを迎えるなど、アボカド市場全体の成長を目指して活動を行っています。(http://www.californiaavocadosociety.org/)
 彼らの活動の原資はMembershipです。年会費は45ドルから5000ドルまでと幅広く設定されているため、単なるアボカド好きから生産者までが「アボカド業界と市場の発展」という目的に貢献することが可能です。また、メンバーは自分の投じた額に応じたベネフィットを得ることができるのですが、45ドルのメンバーでも情報誌などの送付のほかに年4〜6回のセミナーが受けられます。
 ここ数年の日本食レストラン数の伸びや、お寿司だけでない居酒屋やラーメン店といった業態の広がりを鑑みると、米国における日本酒市場も、種まきの段階から発芽、成長の段階に入ったと感じています。この成長をさらに促進するために必要なのは、次のようなことではないでしょうか。
|楼萓なども網羅した日本酒のしっかりとしたデータベースづくり
▲譽好肇薀鵑箴売店に対するお酒の取り扱い、保管に関する具体的な情報提供
コアユーザーや日本酒ファンを継続して楽しませることができるセミナーの実施
セミナーに関しては、ソムリエに対する日本酒のセミナーを積極的に行っていくことも非常に重要で有益でしょう。
 このような活動を米国で行う場合には、日本酒の啓蒙と日本酒市場の継続的な成長を目的とした、米国スタイルで運用されるNPO組織の設立が最良のスキームだと思います。ゴールが同じ場合でも、米国人にとってより理解しやすく受け入れやすい説明を行うには、積極的な現地人の登用も必要になります。
 前述のCASのように、特定の地域の特定の銘柄ではなく日本酒全体の相互利益を目的とすること、また、Membership制度の導入により、ベネフィットとしてのセミナーなどを通じて、近年著しい勢いで増加しているSake ファン、Sake Geekの知的欲求や体験欲求を満たすことは、日本酒市場に水や栄養をやることとなり、日本酒の発展という私たちが望むステージにつながっていくに違いありません。
(くろさわくみこ・八海醸造株式会社・http://www.hakkaisan.com/:ロサンゼルス在住)

月刊 酒文化2012年07月号掲載