酒専売の国カナダ・オンタリオ州のアルコール管理局について

宮下清子

 カナダはアメリカに隣接し英語を公用語としている(カナダの公用語は英語とフランス語の二カ国語)ことからか、アメリカと同じ文化と思われがちですが、実際には貨幣にエリザベス女王が刻印、印刷されているように、イギリス連邦加盟国であり英連邦王国の一国です。
 アメリカのメルティングポット国家(人種のるつぼ)に対してカナダは、モザイク国家(他民族)と言われており、簡単に云えば、アメリカに移民した人々は、フロンティア精神の元、アメリカ人になり生きていくことを前提に国家が成り立っています。一方のカナダは、イギリスの保守的精神を踏まえ、移民した人々が、それぞれの文化や歴史を共有しあって生きていく国家形成になっています。例を挙げれば、語学教育においてアメリカは、英語がスタンダードであり、カナダは、公用語の英語とフランス語以外の言語に対しても少ない予算ではありますが国がサポートし学ぶ環境を作っています。
 前置きが長くなりましたが、カナダの歴史や文化は、これからお話しするアルコール飲料に対しても、少なからず影響を与えています。今回は、カナダ最大都市トロント市を含むオンタリオ州のアルコールについて説明します。
●オンタリオ州アルコール管理局LCBOって何?
(http://www.lcbo.com/aboutlcbo/media_centre/)
 オンタリオ州政府が禁酒時代(1927年)に制定したアルコール飲料に対する法律を管理する局で、専売制(国家などが財政収入を増加させるために、特定物資の生産・流通・販売などを全面的に管理下に置いて、そこから発生する利益を独占する制度。品質保証、安全管理上の意味合いもある)である。
 2010年現在、オンタリオ州の人口は1200万人強で、LCBOは618店舗あり、この中にはビール飲料だけの特化した店舗もあり、カナダ最大のビール会社(モルソン)も所有している。取扱商品数は2万点以上に登り、世界最大のアルコール飲料の購入、小売販売会社である。LCBOは3つの部門(Vintages, Private ordering, Retail Stores)に分かれており、総従業員は7000人(本社と店鋪従業員を含む)を超えている。
●Vintagesって何?
 LCBOの組織の一部で世界中からプレミアムな商品をエージェントを通して購入し、広く紹介するために数多くのイベントを開催したり、LCBOの店頭で販売されるアルコール飲料を紹介するカタログを制作し、2週間に一度の割合で無料配布している(http://www.vintages.com/index.shtml)。この他、アルコール飲料に合うFood & Recipe Bookなども制作、無料配布している。
●LCBO Private Orderingって何?
 LCBOが取り扱っていない商品を輸入したい場合、LCBOプログラムに沿ってオーダーすることが出来る。ただし、オーダーしてから半年以上の期間がかかり、コストに輸入税、LCBOのマークアップ、取り扱い料金などがかかる。Private orderingには、Consignment Programがあり、輸入業者がLCBOに委託し商品をLCBOの倉庫に保管し、主にレストランに販売するシステムで店舗販売のテストケースとなっている。
●LCBO Retail Storesって何?
 LCBOは、オンタリオ州でアルコール飲料を扱う唯一の会社であり、Retail(小売業)も統制下にある。Retail Storesは、Vintagesの商品を含む約2万点のアルコール飲料を一括販売している。
 以上、オンタリオ州のアルコール管理局についてお話ししましたが、資本主義のアメリカに対して、社会主義的な経済政策をとっているカナダにおいて、アルコール飲料はコントロール(制御)するものであり、LCBOのシステムそのものになっています。そして、そのLCBOを管轄しているのが、AGCO (The Alcohol and Gaming Commission of Ontario)で、AGCOは、アルコールを扱う全ての業者のライセンスを管理しています。
 次回はLCBOの日本酒販売の本格化についてレポートします。
(みやしたきよこ・Kado Enterprise代表・http://www.kadoenterprise.com/:トロント在住)

月刊 酒文化2012年04月号掲載