北京白酒会

 私、現在、「北京白酒会」なる会の会長をしております。「北京白酒会」とは北京在住の日本人で、白酒を愛する人の集まり。毎月一回、会員が持ち寄った白酒を中国料理のレストランに勝手に持ち込み、ウエイトレスの女の子たちの白い視線を背中に感じつつ、「やっぱり水井坊(しゅえじんふぁん)はうまいねぇ!」とか、「二鍋頭(あーるごとう)は安いけど酔えるねぇ!」などと言いながら、杯を交わしております。
 白酒(ばいじょう)は、ご存知の通り、コーリャンベースの蒸留酒で、アルコール度数は低いものでも三八度、高いものでは七〇度近いものもあります。これを小さな杯に注いで、生で一気にあおります。日本で白酒(しろざけ)と言えば、ひなまつりの時に飲むあまーいお酒ですが、中国で白酒(ばいじょう)と言えば、「男の中の男の酒」なのです。
 日本で知られている中国の白酒、と言えば、貴州省の「茅台(まおたい)」や四川省の「五糧液(うーりゃんいえ)」などが有名ですが、ここ本場中国には、そうした高級白酒だけでなく、二鍋頭のような数元(数十円)で十分酔える庶民の白酒、後味が甘い内モンゴルの牛乳白酒、漢方薬入りの健康白酒、などなど、様々な白酒があります。
 わが北京白酒会でも、過去六年間にわたって飲んだ白酒の統計をとっていますが、同じ会社の別ブランドも含めると、実に三〇〇種類以上の白酒を飲んでいます。別に、中国全土から珍しい白酒を取り寄せているわけではなく、会員のみなさんが仕事で中国各地に出張した際に、お土産として買ってきたご当地の白酒をみんなで飲んでいるうちに、そんな数になってしまいました。日本酒の地酒のように、中国にもその土地その土地に、地元の人自慢の白酒があるのです。
 さて、白酒の飲み方ですが、白酒は一人でちびちび飲むようなお酒ではありません。白酒は大人数で中国料理の円卓を囲んで、おいしい料理をたらふく食べながら、ワイワイガヤガヤ飲む明るいお酒です。
 そうした宴会で白酒を飲む時には、日本のように各自が自分のペースで飲む、などという寂しいことは許されません。飲む時は、何かと理由をつけて、みんなで、もしくは誰かと干杯をして飲むのが暗黙のルールです。
 中国での宴会には欠かせない白酒ですが、日本人の中には、その高いアルコール度数と、強烈な穀物の匂いから、「白酒はちょっと……」とおっしゃる方が多く、同じ中国のお酒なら、紹興酒(しゃおしんじょう)の方が人気がある、というのが現状です。
 そんな貴兄におススメなのが、冒頭に出てきた「水井坊」です。この「水井坊」、ここ数年で急速に人気が出てきた高級白酒で、「茅台」や「五糧液」など白酒の代名詞とも言える先輩白酒を押しのけ、今や、中国ナンバーワン白酒、と言っても過言ではない地位に上り詰めています。
 産地は四川省、アルコール度数は五二度。原料はコーリャン、とうもろこし、小麦、もち米、米です。お値段は一瓶五〇〇元(七五〇〇円)前後と、白酒にしてはかなり高いのですが、そのさっぱりとした高貴な味わいは、白酒が苦手な人をも「うまい!」と唸らせます。日本ではなかなか手に入らないかもしれませんが、中国では酒販店にはほぼ間違いなく置いてあると思いますので、中国に来られる機会がありましたら、是非、味わってみて頂ければ、と思います。
(やなぎたひろし:北京華通広運投資顧問有限公司社長、北京在住)

月刊 酒文化2006年06月号掲載