好評です サケとチーズのペアリング

 日本酒のイベントは、今では世界各国でも行われるようになった。日本酒に興味のある者はもちろん、日本酒を飲んだことが無い参加者にも楽しんでもらえるようなイベントの試行も耳にする。
 今日のイギリスでは、IWC(インターナショナルワインチャレンジ)の出品酒の試飲会が毎年もっとも大きな規模で開催されているのではないかと思う。大使館等も積極的に賛同し、IWCに出品された日本酒の数は5年前までは228銘柄であったのが、今では468銘柄までに増えた。
 昨年行われた、IWCのメダル受賞蔵の日本酒試飲会では約350人もの参加者が集まり、かなりの盛況ぶり。ただ、会場で試飲出来る出品酒や、メダル受賞酒がイギリス国内に流通していない場合が多いので、気に入った酒を見つけた参加者をがっかりさせてしまうということもある。
 酒類関係者用と、一般客用とで試飲会の時間帯が分けられているのもありがたいが、参加者は毎回同じ顔ぶれ、と言うのも事実ではある。昨年のイベントでも、同じ参加者と同じような話をしたっけな……、と思うことが過去に何度かあった。でも、あ、まだこの人は日本酒のファンで居てくれているんだな、と再確認することも出来る。日本酒に興味を持つ者が友人や家族を説得してまで日本酒の試飲会に同行させる、と言う熱心な日本酒のファンも増えてきている。
 このIWCの試飲会の他には、日本文化のイベント、各種チャリティーイベント、フードショー、旅行会社やインテリアデザインのトレードショー等々、以外な分野においても日本酒が登場できる場は増えて来ている。しかし、以前参加したことのあるトレードショーでは、日本酒を飲んだことが無い人や、聞いたことが無い人の多さに驚くこともあった。普段では顧客やレストラン関係者、そして日本酒関係者との交流が多いこともあり、日本酒を知らないと言う人となかなか出会う機会がない。それが、トレードショーに参加してみると、まったく日本酒が認知されていないことを知る。「サケって何だい?」という質問ばかりだった時には、腹からぶくぶくと闘争心が湧いてくるような感覚を覚えた。
 あの感覚が忘れられず、1年前から始めたのが“日本酒の会”だ。ただ単純に、国内の飲食店や日本酒関係者の輪を繋げたい、そしてもっと皆が日本酒に触れることの出来る機会を増やしたいと思って始めた会である。会は毎月一回、会場は毎回違うレストランを選ぶので、私にとっても、そして参加者にとっても新しい発見になる。気になっていたけど、なかなか行く機会が無かったという、特に日本酒を扱っていないレストランで日本酒を飲むなんて、そうそう出来ることではないと思う。参加費用も会場となる各レストランの協力で、出来るだけ押さえることが出来る。
 今までで好評だったテーマの一例は、チーズとぬる燗、冷酒とぬる燗、そして山廃セレクション。ニューヨークの日本酒事情を良く知る知人から、家庭での日本酒の普及の有無が、ロンドンとニューヨークの需要量の差に大きく影響する、と教えられたことがあった。そのアドバイスを受け、最近では日本酒に合う料理教室にも挑戦した。あえて日本食ではなく、近所のスーパーで購入出来る食材を使った料理を作り、最後には皆で日本酒とのペアリングを楽しんだ。そして、一番好評だったのがチーズと日本酒というテーマだった。ここはやはりヨーロッパ、チーズが好きな人は多く、興味のある人も多い。初回は冷酒だけで挑戦して参加者からの評価も良かったので、2回目はぬる燗でも試してみた。結果はとても興味深く、皆、目からウロコと言った感じだった。山廃をテーマにした時には、皆でスルメを噛み締めながら酒を飲んだ。じわっと旨味の広がる口中に、山廃を流し込む感覚をどこまで解ってもらえたかは定かではないが、楽しかったのには間違いない。
 今まで、日本酒や日本酒のイベントを通して本当に多くの人と出逢うことができた。皆、日本酒を愛する気持ちは同じ。日本酒は“楽しい”、そう思える日本酒を、一人でも多くの人に届けるのは、私達一人ひとりの役目ではないだろうか。
(おおくぼさとみ・Zuma Restaurant・http://www.zumarestaurant.com/:ロンドン在住)     ■

月刊 酒文化2012年07月号掲載