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もちろん学生ではお座敷代をもてませんから、大学のたくさんの先生方に一緒に参加してもらいました。芸者文化の授業をおこなった4年間は、先生方の協力で、毎年、学生にお座敷を体験させられたのは、ほんとうによかったと思います。
そのほかにも多くの方のご支援をいただきました。まだ修行中だったころに、オーストラリアにいる父が癌になり余命半年という宣告を受けました。そこでオーストラリアと日本を何回も往復するようになったのですが、そのたびにお稽古が中断されて遅れがちになりました。すると贔屓にしてくれたお客様が邦楽を1000曲以上入れたアイポッド(iPod)とスピーカー・楽譜・三味線を用意してくださったのです。おかげで飛行機の中や看護中もお稽古できました。
そうこうして4年も経った頃でしたか、お世話になったお姐さんが置屋を引退する話が持ち上がります。私はこの機会に置屋として独立したいと考えましたが、浅草では外国人という理由で独立は認められませんでした。最終的に深川に移り、そこで置屋を始めることになったのです。
■深川芸者「紗幸」誕生
紗幸さんは深川に移り置屋を営みながら若い芸者の育成にも取り組みます。京都や金沢では、芸者の育成に自治体がスポンサーとなっていますが、深川ではそうしたサポートはありません。それでも紗幸さんのところには芸者になりたいという相談がたくさん舞い込みます。
慶應義塾大学の次は早稲田大学から講義のオファーをいただき、現在は東洋大学でも週2回日本文化と芸者に関する授業をおこなっています。日本各地や海外から依頼もいただき、文化講座やイベントなどで講演することも多いです。新型コロナ流行前の2019年は、中東やヨーロッパなど9か国に深川芸者として招待されました。ノルウェーでは現地の子供にも着物を着させて私たちの芸を披露し、イタリアのローマの博物館では深川芸者の写真展覧会と講演会をおこなうなど活動内容はさまざまです。
深川芸者として海外イベントに参加し情報発信することが多いからか、最近は留学指向のある日本人や海外から芸者になりたいと応募があります。ですが芸者や置屋は風俗営業法の規制で外国人はビザがとれません。私は日本の永住権をもっているから置屋をやることが認められたのです。
コロナ以前は芸者志望の若い日本人を毎年3名ずつ住み込みで預かりました。高校や大学に通いながらお稽古に励んだ子もおり、これまでに世話をした子は10名を越えます。芸者になるためには芸事のお稽古、礼儀作法やマナーなどの習得に最低半年はかかります。その育成期間が無収入ではなかなか続けられません。西欧のバレエやオペラの場合には企業スポンサーがついて育成を支援してくれます。芸者は海外からの人気が高いので、観光や文化の面から支援を受けられるとよいと思います。
■芸者文化を体験したい外国人たち
深川の花柳界を活性化するために外国人観光客が必要だと紗幸さんは考えます。運河に和舟を浮かべて芸者を乗せたり、個人客が手軽に芸者さんを呼べる店をつくったり、芸者を通じて四季の変化を体験できたりすれば大きな観光資源になると考えるからです。
外国人には日本観光で芸者さんを呼びたいというニーズがあります。しかし「予約の取り方がわからない」「個人では料金が高くて頼めない」など課題は満載です。私の置屋では外国人ボランティアにこうした問い合わせに対応してもらっています。日本人のお客さんは先細りですから、外国人観光客の取り込みが大切なのです。
かつて和服は高価で着付けも難しかったので縮小する一方でした。しかし浅草などの観光地で、外国人観光客の着てみたいというニーズに応えるために簡単に着られて洗えるポリエステルの着物が生まれ、日本人観光客にも広がりました。海外からの観光客に対応することは花柳界の大きなテーマです。そこでお手軽に芸者遊びを経験していただこうと、「舞妓ちゃんと一杯」という企画を始めました。1時間1万円で若い見習の舞妓ちゃんを派遣して、カウンターのお店で一緒に飲もうというものです。ここからお座敷につなげたいと思っています。それと深川を舞台にして芸者にスポットを当てた番組もつくってみたいです。「定期的に芸を披露できる舞台」や「お座敷とカウンターのある店」など実現したいことがたくさんあります。協力者を募ってひとつひとつ実現していこうと思います。
〈深川芸者 紗幸 プロフィール〉
本名フィオナ・グラハム。オーストラリアのメルボルン生まれ。
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