変わる日本食レストラン ロボットと日本人雇用― カナダ・トロントで今おきていること〜前篇

 つい先日、グルメファンならずとも楽しみなトロント・レストランランキングが発表された。イタリアンやフレンチ部門ではいつも通り老舗レストランが上位にランキング。ジャパニーズはというと、トップ10の半数が居酒屋で、日本やバンクーバーから上陸したラーメン屋が3店舗。2010年までのジャパニーズといえば寿司レストランという時代から、大きく様変わりしたことを実感した瞬間だった。

トロントの日本レストランの歴史

第一章 日本人移住者による日本料理シェフ
 今から40年程前のトロントには日本食レストランが8店舗。プリンスホテルには桂レストランがあり、都心部には紅花レストランがあった。桂レストランで腕をふるうシェフたちは、和食、フレンチ、イタリアン、それぞれが日本のプリンスホテルで修行した料理人であり、その他の6軒も調理師免許を日本で取得した日本人移住者が経営、自ら調理を行っていた。食材も日本から独自で空輸することも多かったらしく、日本食イコール高級レストランという括りの中で、数に限りはあるものの、ある意味正統な日本の味を提供する環境が整っていた。
第二章 なんちゃって日本寿司屋
 それから15年経った1980年代後半、世界的な健康食ブームから日本食が話題になり、カナディアンたちも寿司に興味を持ち、「Sushi restaurant」の需要が増えた。が、日本からの寿司職人が急激に増えるはずもなく、当時、移住が増え始めた韓国人は、元々韓国にある巻き寿司中心のレストランを次々にオープンさせていった。その後、韓国の巻き寿司は進化を遂げ、ドラゴン巻きやトルネード巻きといったサーモンやマグロなどの魚介類を使った巻き寿司文化を作り上げていった(彼らは、ジャパニーズスシと呼んでいる)。
 新鮮な魚介類に関しては、当時はボストン沖で大量に捕れたマグロや、急速に発達した冷凍技術により新鮮な烏賊や鯖が安価に手に入るようになり、寿司レストランがビジネスとして定着できると見込んだ中国人投資家は、ビデオ等で寿司の握り方を習得した。彼らは中国人を雇い入れて、次々に出店して、瞬く間に日本食レストランは150店舗に膨れあがり、2000年の頃には約500店舗の「Sushi Restaurant」がダウンタウンを中心に開店した。
第三章 『居酒屋』文化の始まり
 あれから20数年、2010年にバンクーバーからトロントに北の家グループの『Guu Izakaya』が進出し、アジアの寿司に少し飽きていたトロントニアンは、居酒屋料理のみならず居酒屋文化を多いに満喫しているようだ。2013年、ジャパニーズレストランランキング1、2位を独占したGuuの総責任者(CEO)の小笠原克さんに話を聞いた所、日本人客の割合は3%だそうで、その理由は“賑やか”というより“騒々しい”ぐらいのスタッフの熱気と、一見、オーバーリアクションかと思われる程のお客様への来店と見送りの日本語での挨拶(いらっしゃ〜い、ありがとうございま〜す)、メニューは日替わりも多く、ほとんど日本語のままで英語の説明書きが書いてあるといったスタイルは、日本レストラン、イコール静かで琴の音楽が掛かっているようなイメージを持つ在住日本人には馴染めないようだ。
 バンクーバーから進出のもう一つの『居酒屋Kingyo』のオーナー銭丸さんは、『Guu Izakaya』とは違った空間づくりをしていて、レストランに入った瞬間、日本の今を感じて楽しんでほしいというだけあって、大きなスクリーンには日本のアニメが流れ、壁の一部には光を放つパチンコ台が埋め込んである。200席の一部は夜店の金魚すくいを想像させるタイル張りのテーブルがあり、沢山の重厚な木材を使用しているせいか落ち着いたつくりになっていて、何となしに日本を感じられる。
 今や居酒屋は、日本の食文化のみならず日本文化の担い手でもあるようだ。 
宮下清子(カドエンタープライズ)
2013年秋号掲載

月刊 酒文化2013年08月号掲載