京都の純米酒とインドネシアのカカオが紡ぎ出す神の酒

 京都を本拠とするチョコレート・スタートアップ企業のダリケー(Dari K)。2011年に創業し、今ではチョコレート愛好家の間で評判だ。同社は京都の酒蔵と共同してカカオ酒『神香』を開発した。加糖したものは竹野酒造が、無糖は与謝娘酒造が製造している。京都市北区の新大宮商店街にあるダリケー本店で加糖の『神香』を購入してみると、カカオのふわっとした芳醇な甘さが漂う。それでいて純米酒らしい、きりりとした印象で締めくくられる。カカオがこんな風味になるのかとほんとうに驚いた。
 ダリケーという社名は、インドネシア語で「〜から」を意味する「ダリ」に、同社が使うカカオの産地であるスラウェシ島がアルファベットの「K」の形に似ているところから名づけた。カカオと言えばガーナのイメージが強いが、インドネシアも産地である。そのカカオに商機を見出した吉野慶一社長は、金融機関などを経て起業、できるだけ混ぜ物をせず、カカオ本来の味を活かすチョコレートを商品化する。今でこそ大手メーカーが追随しているが、日本ではダリケーがいち早く市場に出しインパクトを与えた。
 2年前に参加したダリケー主催のスラウェシ島カカオ農園を視察ツアーには、社会人から学生まで多彩な人物が集まり、農家や地元の人々と交流をした。カカオの質を向上させ、付加価値を高め、ダリケーを通じて世界に、という農家の人々の意気込みを感じた。インドネシアの農家と吉野氏と若い社員たちは二人三脚で夢を追う。
 吉野社長はインドネシア産カカオへのこだわりについて、こう語る。「カカオ農家は、近年の気候変動や国際価格の低迷により栽培を続けられなくなっていました。品質の良いものをつくっても、買い叩かれることもしばしばありました。カカオ=チョコレートの原料、という枠に囚われず、自由な発想でカカオがいろいろな使われ方をするようになると、価値も上がると考えていました」。
 『神香』を開発した背景については、「カカオの学名はテオブロマ・カカオ。『神様の食べ物』という意味です。一方で、日本酒は古来より神社に奉納するしきたりがあり、自然の恵みを神様に感謝し捧げるというところが通じます。何かできないかと考えた末に生まれた商品です。焙煎したてのカカオ豆を純米酒に漬け込んで、香りを日本酒に移しました」と誕生秘話を明かす。
 新しい酒をつくり出すのは簡単ではない。「カカオの配合やどれくらい漬け込むかで味が変わります。何十回も試行錯誤しました。でも杜氏と一緒につくり込む作業は、世にないものをつくるという楽しいものでした」と嬉しそうに話す。
 インドネシアのKの島から日本に届いたカカオは、京都の純米酒と出会って新しい酒となった。『神香』は関わった人々の熱い思いを味わえる酒なのである。
(かわばたたかし・シンガポール在住) 
2018年冬号掲載

月刊 酒文化2017年12月号掲載