台湾で「カンパイ 日本酒に恋した女たち」上映会

 日本で四月に公開されたばかりの映画「カンパイ 日本酒に恋した女たち」(小西未来監督作品)が、この夏、台湾でも上映されました。台湾で上映される日本酒の映画はこれが初めてではなく、約三年前に「一献の系譜」(石井かほり監督作品)が上映されています。この時は日本で公開された一年後の上映で、会場も台北だけでした。ところが今回は日本で公開された約三か月後、しかも、台北、台中、高雄という台湾の三大都市での上映です。
 公開に際してプロモーションのために、作品に出演した今田酒造本店(広島県)の杜氏である今田美穂さん、恵比寿の日本酒バー「GEM by moto」店長でペアリングの本も出版して評判の千葉麻里絵さん、グルメ雑誌『dancyu』の元編集者でさまざまな酒イベントをコーディネートしている神吉佳奈子さんの三人が来台し、トークショーが開催されました。
 映画の上映直後におこなわれたこの催しには、日本酒の初心者からマニアまで、一〇〇人近くが参加しました。会場から質問を受けると、「三人とも女性なのにお酒が強そうです。二日酔いを防ぐいい方法がありますか?」、「千葉さんはいろいろな酒蔵を訪ねたと思いますが、お嫁に行きたい蔵がありましたか?」、「日本酒のテイスティングはどうやったら上達するでしょうか?」など、ユニークな質問が飛び出しました。三人も一生懸命に回答して、笑い有り、学び有りの楽しい時間となりました。
 そのほか千葉さんがインストラクターになって、台湾料理と日本酒のペアリングイベントもおこなわれました。日本と違い、台湾では料理とお酒は別々楽しむのが一般的です。食事の時はおいしく食べ、ほとんどお酒を飲みません。それで今回初めてペアリングを試したという方も少なくなかったようです。びっくりしたという声を何人かから聞きました。特に評判だったのは、台湾の代表的な料理「滷肉飯(ルーローファン)」と日本酒古酒のペアリングです。日本酒の古酒は紹興酒に近い香りがあるせいか、台湾で日本酒を飲む人は古酒にあまり関心を向けません。ところが千葉さんは古酒に梅酒を加えて、少量の胡椒をプラスしました。すると滷肉飯のタレのようなニュアンスが出て、料理にピッタリ合いました。古酒の魅力が台湾の人々に伝わったと思います。
 映画を見る人がみな日本酒に詳しいわけではないので、高雄では上映の後、台湾の日本酒名人マイケル欧先生が日本酒セミナーをおこないました。醸造から保存の仕方まで丁寧に説明して、広島、茨城、福島などのお酒の試飲会も開催しました。
 映画会社の話では当初の上映予定は一週間でしたが、とても好評なため三週間に延長したそうです。私の友人には日本酒好きがたくさんいます。全員が映画を見ましたが、日本酒業界で活躍する女性たちの姿に感動して涙が出たという人もいました。私は感動しましたが泣いてはいません。ただ、映画館を出たら、無性に日本酒を飲みたくなりました。映画を見ながら飲めると最高だと思います。
 台湾の日本酒関税は七月末に四〇%から二〇%に下がりました。この波に乗って、台湾に日本酒ブームがおきることを期待しています。
(ケニーヤン:台北市在住)
2019年特別号下掲載

月刊 酒文化2020年06月号掲載