自家醸造のマシーン登場

 今回は、最近、気になっている自家醸造マシーンを紹介したいと思います。スマートフォンのアプリを利用して、材料を入れるだけで簡単に酒をつくれる夢のようなマシーンです。見つけたのはフェイスブックの広告でした。これを使えばおいしい清酒がつくれるという広告が現れたのです。清酒をつくるには最初に麹をつくらなければなりません。さらに糖化とアルコール発酵を同時に進める並行複発酵の工程があります。私はこのマシーンは並行複発酵をコントロールできないだろう、だからおいしい清酒はつくれないと考えました。
 出会いは時に絶妙のタイミングで起こります。この広告を見た数日後、友人たちの新製品発表会で、なんとこのマシーンを製造する会社の方と一緒になったのです。私は本当にこれで清酒をつくれるのかと尋ねました。すると彼は、「本来の清酒の製造工程とは違うので、できた酒は清酒と言えないかもしれません。ですが原材料は米なので、清酒のような味わいの酒ができます」と答えました。どのような酒ができるのか興味があったので、このマシーンでつくった清酒を試させて欲しいと頼みました。彼は快諾してくれましたが、その代わりに自家醸造マシーンでつくった酒のコンテストの審査員をやってくれないかと言ってきました。
 その2ヶ月後にコンテストが開催されました。出品される酒は簡単な果実酒やビールなどだと思っていましたが、レベルは想像以上高いものでした。複数の原材料を使ったり、何度かに分けて仕込んだり、数回濾過したりしたものもありました。何年も前ですが自家製ビールを試したことがあります。けれども一度にたくさんできてしまううえに時間もかかるので、数回でやめてしました。しかし、コンテストの参加者たちは、このマシーンはアプリで酒の状況を把握できるので、おいしい酒を思っているより簡単につくれると言います。
 自家醸造マシーンは台湾の会社が設計、製造しています。創立者は自家醸造の普及だけでなく、台湾の農家をサポートしたいと夢を語ります。すでに農家とコラボして、キウイフルーツ、桃、米などの原材料キットを提供しています。
 これでいろいろな酒をつくることは本当におもしろいです。アプリは英語と中国語しか対応していないので、今はアメリカと台湾でしか販売していません。日本では自家醸造が禁止されていることもあり、発売は未定だそうです。
 そして私は自分へのお年玉としてこの自家醸造マシーンを手に入れました。今はアプリの酒レシピを使っていますが、慣れたらオリジナルのレシピづくりにチャレンジしようと思っています。将来、皆さんが私の考えた酒レシピを使えるようになるかもしれません。
(ケニーヤン・台北在住)
2020年春号掲載

月刊 酒文化2020年06月号掲載