子供の誕生を祝う酒

 私事で恐縮だが、来月、子供が生まれる予定で、最近とてもバタバタしている。妻は必要なものを調べて、私に次々に指示をした。頑張って言われたものを買い揃え、ほぼ準備できたと思った時に、ひとつ重要なアイデアが浮かんだ。「そうだこの子の結婚式で使うお酒を準備しよう!」。
 中国には「女兒紅」や「狀元紅」という長期熟成させる紹興酒がある。子供が生まれた時仕込んだ紹興酒を家の倉庫にずっと寝かしておき、その子の結婚や出世の際のお祝いに使う。昔の女性は約16歳で結婚したので「女兒紅」の熟成年数は16年。「狀元紅」は男性の結婚式で使うことが多く、熟成年数は18年前後だったと言う。
 調べてみると台湾でも桃園酒廠で紹興酒を販売していることがわかり、週末にさっそく行ってみた。桃園酒廠は北台湾最大の醸造工場で、紹興酒のほかに清酒やワインも生産している。見学コースのなかに、紹興酒の壺がたくさん並ぶ熟成庫があり、なかには何十年も熟成しているものがあると説明があった。見学の後、ガイドの人に子供のために紹興酒の新酒を買いたいと伝えると、台湾では最近は紹興酒を飲む人が少なくなって、新酒はほとんどつくっていないのだという。残念だが新しい紹興酒がないのではこのプランは難しい。
 紹興酒の代わりに思いついたのが高粱酒だ。数年前、友人の結婚式で新婦のご両親から熟成した高粱酒を勧められたことがある。高粱酒はアルコール度数が高く、新酒はアタックが強いので普段飲むことはほとんどない。だが、この酒はまろやか飲みやすく香りも余韻も長い、すばらしい味わいだった。
 台湾で一番有名な高粱酒は「金門高粱」だ。金門は台湾より中華人民共和国に近い離島で、厦門と向き合う。昔は中華人民共和国との戦闘の最前線になり、約60年前には数十万発の砲撃を受けた。その弾殻が包丁の原料として再利用されて、金門の名産物になったほどだ。「金門高粱」はスーパーやコンビニなどで簡単に購入でき、さまざまな国家行事を記念して発売される限定品も多い。
 金門は遠いので工場には行かなかったが、調べてみると、金門酒廠は子供の誕生日に近い指定生産日のお酒が注文できることがわかった。妻の従姉妹が金門に住んでいることもあって、子供が生まれたら、彼女に頼んで当日の高粱酒を購入することを決めた。
 もちろん日本酒もワインも考えた。日本でも子供が生まれた年の日本酒やワインを自宅や蔵で熟成して、数十年後に飲むことがあると聞いた。しかし、どちらも子供の生まれた日につくられたものは手に入らない。その上、日本酒は熟成するほど風味が柔らかくなるかもしれないが、ワインは飲み頃があり、数十年後の結婚式での味はちょっと心配だ。やはり長期貯蔵できる高粱酒がベターだ。
 とは言うものの日本酒とワインも少し貯蔵するつもりだ。子供の結婚式で使えなくでも、折にふれて、妻と一緒に楽しめば、子供が生まれた時の喜びを思い出せるから。
(ケニーヤン・台北市在住) 
2019年秋号掲載

月刊 酒文化2020年06月号掲載