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ラクダのミルク泥棒 カザフスタン

 8月にカザフスタンを旅行してきた。特にこの国に関心があったわけではなく、知り合いがラクダ牧場に乳酒を飲みに行くから一緒にどうと誘われたのである。こんな機会でもなければ行くことはないと思って話にのったというわけ。
 しかし「ラクダ牧場」といわれてもピンとこない。ラクダと聞いて思い浮かぶのは、背中に荷物を背負わせて砂漠を進む商人の隊列。あるいはラクダに跨って颯爽と走るアラビアのロレンスだ。羊や牛のように、ひとつの所でうじゃうじゃと群れているイメージは湧かない。そもそもなぜラクダを飼うのか。ミルクのためなら牛のほうがタップリ出してくれそうだし、毛なら羊のほうがいいものがとれる。肉がおいしいならもっと出回るはずだが、聞いたことがない。農耕や運搬の動力として数頭飼うならわかるが、まさか乳酒のためということはあるまい。
 旧都アルマトイから東へバスで3時間くらい走って、ようやく到着。周りは乾燥した野原がどこまでも広がっていて、遠くに天山山脈が見える。ちょうど放牧地からラクダが帰って来きたところで、あっちもこっちもラクダだらけ。何十頭ものラクダが一気に小川を渡るのなんか見ごたえがあった。もともと群れで暮らすようで、勝手にあちこち行ってしまう奴はいないのだが、100頭の群れに雄は一頭だけと聞いて驚いた。雄が生まれると喧嘩をしないように去勢して、食肉用に育てるのだそうだ。
 牧童は搾乳小屋に一頭ずつ追い込んで、仕切りの奥から乳を待つ子ラクダを引っ張ってくる。牧童はラクダの親子をすべて覚えているのだろう、嫌がるそぶりを見せることなく子ラクダは乳を吸い始める。ある程度飲ませたところでバケツを持った女性がさっと入れ替わり乳を搾る。
 乳酒はこれをひたすら攪拌するだけだ。空気中の酵母の働きで糖分が少しだけアルコールになる。遊牧民は馬乳や牛乳でもつくる。モンゴルで飲んだ馬乳酒は酸味が強くおいしいと思はなかったが、ラクダの乳酒はマイルドで飲みやすい。
 そして最初の疑問、なぜラクダを大量に飼うのかの答えがわかった。薬用として用いられていたのだ。民間療法で癌がなにかにいいらしい。牧場の片隅にはサナトリウムがあり、数人が長期滞在していた。彼らがミルクを飲んでいるのか、乳酒を飲んでいるのかは聞かなかった。
(はらだぺこ・横浜市在住)          
2019年冬号掲載

月刊 酒文化2018年12月号掲載