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スリランカの「ライオン」

 インド洋の南に浮かぶ島国、スリランカ。昔から知られるセイロンティー、最近は伝統医療のアーユルヴェーダが日本でも女性誌などで取りあげられるようになった。三〇代後半より上の方は、朝の情報番組「ズームイン!朝」でお人気を博した英語教師のウィッキーさんを思い出すかも知れない。
 九月にスリランカ最大都市のコロンボに、わずか四日間だが滞在する機会があった。この旅の有意義な収穫のひとつは「ライオン」というおいしいビールに出会えたことだ。アジアの各地でさまざまなビールを飲んできたが、今までで一番おいしいかった。アジアのビールは、基本的にさらっとして薄めのものが多い。カンボジアやミャンマーのビールは、アルコール度数が六〜八度くらいありコクと苦みが強めだが、それでも日本のビールと比べると味は淡泊だ。熱帯、特に屋台や屋外に席を設けているレストランで食事をするときは、このくらい薄い方が飲みやすくはあるが、味わいはいささか物足りない。
 だが「ライオン」は少し趣が違う。ひと口飲むと、口のなかに苦すぎない丸みのある味が広がる。ごくごくと飲むというよりも、ワインのように口のなかで遊ばせながら、ゴックリと飲み込むぐらいの方がおいしい。私はビールが大好きだが、ビールの味を評価するスキルを持ち合わせていない。そんな素人の好みと思って聞いていただきたいが、ライオンビールは、他のアジアのビールと比べて別格においしかった。
 スリランカの食は、カレーやシーフード料理がよく登場する。カレーはインドとちょっと違う。インドのカレーはさらっとした感じのものが多いが、スリランカのはココナッツベースでよりコクがある。これをナンに似たロティというパン、サフランライス、あるいはホッパーというお椀状に焼いた厚めのクレープのようなものにつけて食べる。これとライオンビールとのコンビネーションはすばらしい。スパイシーすぎないカレーとまろやかなビールは絶妙の組み合わせであった。
 製造元はスリランカの地元の企業ライオン・ブリューワリー社だ。国内のトップメーカーとして八種類のビールを製造している。一八六〇年の設立で一六〇年以上の歴史を持つ老舗である。日本でウィリアム・コープランドが横浜で初めての商業用ビールづくりに取り組んだのが一八七〇年だから、それよりも早く、おそらく現在も残るアジアのブルワリーとしては最古ではないだろうか。
 今回のコロンボのホテルは海に近く、一日中、波の音が聞こえた。街路灯が少なく夜は自然の闇に包まれる。空に浮かぶ銀色の月を眺めながら、おかげでおいしいビールをゆっくりと楽しめた。最近、日本とスリランカは、スリランカ航空の直行便で結ばれるようになり、行き来が楽になった。この国には世界遺産のゴール遺跡や、手つかずの自然を活かした自然公園など魅力的なスポットが多い。最低でも数日以上が必要とされる本物のアーユルヴェーダ治療も受けられる。いつもとは違う時間を過ごすには最適な国、一度スリランカを訪ねてみてはいかがか。
(かわばたたかし・シンガポール在住)
2017年特別号下掲載

月刊 酒文化2017年11月号掲載