上海清酒倶楽部

 はじめまして。私は上海で日本酒の講師とコンサルタントをしています。今回からしばらく最新の上海の酒をレポートします。
 日本酒はこの五年くらいの間に中国で流行し始めました。特に上海、北京、そして香港に近い広東省で人気です。中国ではウィチャット(微信、中国版のライン)アプリが広く利用されていますが、この三つの地域には、アプリを使ったいくつもの日本酒グループがあります。
 そのひとつである上海清酒倶楽部は私が運営しています。創立者はマーティン・ハォというワイン評論家で、ハッピービーノワイン教育機構を運営しています。グループのメンバーの多くが、ここで国際きき酒師(Sake Service Institution)やWSET(Wine & Spirits Education Trust)の日本酒コースを修了しています。彼らは日本酒の基礎知識をもった富裕層とも言えます。最初は親睦を深める交流会したが、今では日本酒のイベントを開催したり、コンクールをサポートしたりして、上海の日本酒愛好家の間では知られた存在となっています。
 去年は月に二〜三回のペースで、日本酒のテスティングや料理とのペアリングの体験イベントを開催しました。高価な日本酒もよく登場します。中国では四本で五八万円もする『黒龍 無二』や三五万円の『伯楽星 残響』も開けました。
 高いお酒を開けるのも好きですが、ブラインドテスティングも大好きです。各自が自分のお酒を持ち込むBYOB(Bring Your Own Bottle)だったり、主催者が試飲酒を用意してヒントを出したりします。新型コロナウイルスの流行で集まれなくなった時には、サンプルを小瓶に詰め替えて自宅に送り、ビデオ会議アプリを使って一緒にブラインドテスティングしました。
 中国人は同じ趣味を持っている人とグループで繋がると、自分の食事や生活、ネットで見つけた情報やビデオをシェアするなど、日本酒以外のことでも頻繁に交流します。もう酒仲間ではなく家族みたいな感じになっています。飲み会はもちろん、みんなで行く旅行も楽しみで、去年の八月には日本酒の旅を敢行しました。スタートは中国人にも大人気な銘酒酒場の串駒で「十四代」を満喫し、翌日は富山「満寿泉」を醸す枡田酒造店を見学。枡田社長の案内で富山市のリバーリトリート雅楽倶のフレンチレストランや東岩瀬町の料亭ふじ居で日本酒のペアリングを体験しました。そして、東京に戻って屋形船での日本酒イベントに参加、「義侠」「文佳人」「池亀」の蔵元たちと一緒にランチ、池袋では人気店の稲水器あまてらすでディナー。さらに京都に移動して麹屋菱六もやしと、「澤屋まつもと」を醸す松本酒造を見学し、京都の酒づくり文化を学びました。
 中国人はショッピングが大好きですが、このツアーでは一切なく、百貨店にも行きません。日本酒とグルメだけの贅沢なツアーは、メンバーから毎年やってくださいという声が多く寄せられました。
(ふぉーる・こう:上海在住)
2020年特別号上掲載

月刊 酒文化2020年06月号掲載