中国ワインの過去と現在

 「中国でもワインをつくっているの?」。今回のテーマを見てそう思う方が多いでしょう。中国と日本はお互いに国産ワインの輸出入をほとんどしていません。中国人が日本のワインを知らないように、日本人も中国のワインを知らないと思います。
 中国のワイン醸造の歴史は2000年以上あり、唐代には詩人たちがワインを好んだことが多くの文学作品に描かれています。有名なのは、「葡萄美酒夜光杯、欲飲琵琶馬上催」、「蒲萄酒、金叵羅、吴姬十五細馬駄」などの詩。当時は、贅沢な葡萄酒を最高級のグラスで飲むのが極上の遊びだったのです。
 中国では葡萄品種名に綺麗な中国語訳をつけています。カベルネ・ソーヴィニヨン種は赤い宝石のような色があるため「赤霞珠」(赤い霞のような玉)、ソーヴィニヨン・ブラン種は森のようなフレッシュ青草とパッションフルーツの香りから「長相思」(深い思い出)、ゲヴェルツトラミネール種は濃厚なライチやバラの香りのため、「瓊瑶漿」(雲の上にがる女神の飲み雫)と言います。
 中国のワイン産地は内陸の新疆から海に面した山東省まであり、冬はとても寒い遼寧省でも暖かい雲南省でもつくっています。そのなかでも有名で良質なワインを出品しているのは寧夏です。寧夏の賀蘭山東麓は、緯度、気候、土質がボルドーに近く、高品質なワインができると期待されています。「銀色高地」「賀蘭晴雪」「迦南美地」などのシャトーは、海外のアワードで入賞した実績があります。
 近年は国際的なワイン資本が中国でワイン生産に乗り出しています。2012年にはLVMHグループが雲南省のシャングリラに投資し、当地栽培のカベルネ・ソーヴィニヨン種でつくった「敖云」を45,000円で発売。2019年にはバロン・ド・ロスチャイルド家が山東省でつくった「瓏岱」を50,000円でリリースしました。
 彼らが中国でのワイン事業に積極的なのは栽培に適した土地があるからだけでは、もちろんありません。中国人の購買力を見込んでのことです。一部の中国人はフランスの銘醸地の高級ワインを欲しがっています。レストランで友達や彼女と一緒に、いえ初めて会う人の前でも、高いワインを開けることで満足する人たちです。ワイン好きな富裕層達は各地で毎月例会を開き、ビジネスチャンスを探し、自分と同じクラスの方々とのつながりを維持しようとします。高級ワインはそのために必要なのです。
 また、正反対のようですが、パーティでリーズナブルなワインをたくさん消費する会社もあります。2000円以下のワインをケース単位でレストランに持ち込みます。あまりにもワインを飲むので、フランスやオーストラリアでワイナリーを買収し、ついでにワインの輸入販売をしている経営者も中国では少なくありません。
(フォール・コウ・上海在住)   
2020年秋号掲載

月刊 酒文化2020年10月号掲載