格安便で気分もハイ

 新しい航空会社の飛行機には必ず乗ることにしている。バージン・アトランティックが就航した時にも乗ったし、ジェットブルーにも乗った。今回初体験したのは、「スピリット」だ。日本でも格安航空がどんどん出てきているが、それとほぼ同じコンセプトだ。が、スピリットは新しい航空会社ではない。50年も前からフロリダとカリブ諸島の間を飛んでいた。ただ、いまの格安コンセプトになったのが5年ほど前で、最近ニューヨークに乗り入れるようになったというわけである。
 今回は乗り込む前から胸がどきどきした。というのも、スピリットは手荷物規制が厳しいことで有名だったからだ。とりわけ昨年導入した、機内持ち込み手荷物にも料金を請求するというニュースに関しては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙にも大きく取り上げられていた(この航空会社は、どちらかというとプラス話題ではなく、マイナス話題で紙面を賑わすことが多い)。面白いのは、受託料金より機内持ち込み料金のほうが高いことである。
 この数年、航空会社各社が、受託手荷物にお金を請求し始めた。大きなスーツケースを3個も4個も持って旅をするアメリカ人にしてみれば大事件だったが、ビジネス客にはそれほど影響はないように思われた。ところが、その後手荷物を機内に持ち込む乗客が激増。機内では、無言の手荷物棚スペース争奪戦が繰り広げられ、乗務員がその交通整理に手間取った挙句、離陸時間に遅れる便も出てきた。
 実は、筆者の持ち込み用鞄が1インチだけ規定サイズを超過していた。ゲート前で自己申請しようかどうしようか迷っていた時に、中年男性が現れて、明らかにサイズ超過と思われる鞄を持って現れた。採寸したところオーバーしていたため、50ドル払えということになった。すると男性は、どこからかピンクのゴミ袋を出し、それに鞄の中身を詰替えると、空の鞄を捨てた。決断の早さとピンク色のゴミ袋に驚いた。
 さて肝心の“スピリット”(強い酒という意味)の話をしよう。機内ドリンクメニューは、ビール(4ブランド)、ハードリカー(7ブランド)、ワイン(3ブランド)と揃っていて、7ドル均一。嬉しいのはモヒートとサングリアのフローズンカクテルがあったこと。もちろんパウチ入りだ。話は横にそれるが、昨年このパウチ入りフローズンカクテルが爆発的に売れた。初年度に80億円以上稼ぎだす超ヒット新商品は全米でも10品目あるかないかだが、同カクテルは見事89億円を売り上げ、食品/飲料部門で堂々10位にランクされた。ちなみにスピリットではもう一品、カクテルがサーブしている。ミックスマルガリータだ。氷を入れれば冷たくて甘いマルガリータが出来上がる。この商品だけは1本9ドルとやや高めに価格付けされていた。
 日本のLLCと同様、ボトルウォーターも有料で、紅茶、コーヒーと同価格(2ドル)。他のソーダは一律3ドルになっている。面白いと思ったのは、“ミックス・イット・アップ”というコーナーだ。例えば、「リカーのソーダ割り」は8ドル。「ビール、ワイン、カクテルのいずれか2杯」(2人前)を頼むと12ドル。3人前注文すると16ドルとぐっと安くなる。むろん、ひとりで全部飲んでもよい。食べ物は乾き物だけで、フレッシュフードはサーブしていない。支払いはクレジットカードかデビットカードのみ、というのもアメリカらしい(彼らがよくおつりを間違えるということではなく、手間がかからないからだろう)。
(たんのあけみ・NY在住)
2013年夏号掲載

月刊 酒文化2013年07月号掲載