オイスターバーのあるスーパー

 先日、シカゴで、度肝を抜かれる体験をした。なんとスーパーマーケットのなかに「オイスターバー”があったのである。これまでも売り場の真ん中に、シーフード料理やインド料理や中華風ヌードルを注文に応じて作ってくれる店内レストランはあった。東海岸の著名スーパー「ウェグマンズ」や、テキサスの「HEBセントラルマーケット」のように、売り場から少し離れた場所にレストランを設けて、そこでステーキや生ビールを出しているスーパーもある。しかしオイスターバーとは初めてだ。
 以前はよくシカゴに出張に来ていたものだが、ステーキハウスが多い割に、美味い寿司やエスニック料理を食べさせてくれる店が少ないことから、心のどこかでここは“ジャガイモとステーキの町”だと決めつけていた。ところが、今回スーパーのなかにおしゃれなオイスターバーを発見して驚いたというわけである。
 生牡蠣の陳列もさることながら、お客の多いことにも目を見張った。土曜日の午前中だというのに、次から次へと客が来る。店は、カウンターにテーブルがあって、一〇人ほど座れるようになっている。子供連れの二人の男性客は、一ダースの生牡蠣と白ワインを注文しすっかり上機嫌だ。カウンターに座った中年夫婦は、白ワインを飲みながらシーフードタワーに盛られた生牡蠣や貝の盛合せに舌鼓を打っている。それもこの季節にである。アメリカでは“R”のつく月でなければ、生牡蠣は食べてはいけないと言われてきた。が、最近はどこの店も気にせず出している。いわゆるコールドチェーン(冷蔵輸送)が徹底し、生貝の鮮度に問題がなくなったということらしい。
 店の名前は、「マリアーノズ」。この数年、シカゴのダウンタウンに集中出店しているなかなかいいスーパーだ。ウリは、三鮮やベーカリー、総菜の質が高い割に価格がリーズナブルだということ。新店は、ギリシャ系移民が多く住むエリアらしい。道理で牡蠣やシーフードの食べ方に馴れているわけだ。
 マリアーノズでもうひとつ驚いたのは、青果売り場の隣に寿司バーが設けられていること。それもスタイリッシュで、とてもスーパーのなかの寿司バーとは思えない。その店も、朝から千客万来状態。見るとけっこう若いお客が利用している。みんな、場馴れた様子で寿司職人に握りや巻きを注文し、カウンターでつまんでいる。午前中から冷酒を味わいながら、寿司を楽しむお客もいる。ここがニューヨークやサンフランシスコならいざ知らず、肉大好き人間がごまんと住むシカゴだとはとうてい信じられない。寿司バーの隣には、目を疑うほどの品揃えをしたワインバーがあった。なんと専従のソムリエが三名もいる。カウンターにとまっていた四、五人の女性客たちは、まだ日が高いというのにすっかり上機嫌で席を立つ気配がない。冷蔵ケースには、日本酒も並べられていた。こんなこじゃれたスーパーのあるシカゴもまんざらではないと思い直した。
(たんのあけみ・NY在住)
2013年特別号下掲載

月刊 酒文化2013年10月号掲載