街にサンタコンがやってくる

 今年もサンタコンの季節がやってきた。サンタコンとは、サンタクロース・コンベンションの略である。とは言っても、特別な目的があるわけではなく、単にネット上の呼びかけによって、大勢の仮装したサンタが一ヶ所に集まり、近くのバーを片っ端からはしごして飲み歩くという催しだ。一応、チャリティ・イベントと銘打ってはいるが(実際に寄付金を募っているらしい)、要はいま話題の“フラッシュモブ”である。
 仮装は、サンタクロースに限らず、トナカイや小妖精も混じっている。ハロウィーンのクリスマス・バージョンである。ニューヨークでサンタコンがスタートしてかれこれ17、8年になる。最初は、飲み屋街で集まって、街を練り歩くスタイルだった。が、最近ではツィッターやフェイスブックなどのSNSの普及によって、参加者数が激増。結果、複数の場所に拡散して実施されるようになった。
 今年は、12月14日の土曜日に実施予定となっている。携帯電話に、「どこどこに集まれ!」というテキスト・メッセージが入ると、自宅で待機していたサンタクロースがぞろぞろ街に繰り出す寸法だ。徒歩や自転車でやってくる者もいれば、地下鉄やバスに乗ってくる者もいる。むろん、みんなサンタクロースの衣装をまとっている。
 規模は、大きいもので数千名を超える。それがロックフェラープラザや、セントラルパーク、ユニオン広場、タイムズスクエア、グランドセントラル駅といった、公共の場所や道路を埋め尽くすのだからものすごい迫力だ。道行く子供に小さな贈り物を手渡すサンタもいれば、大声で「メリー・クリスマス!ホッホッホー」と言って誰彼構わずハグするサンタもいる。
 問題は、朝っぱらから酔っぱらいのサンタがあちこちに出没して、顰蹙を買ったり、道路や駅の構内を汚すだけでなく、クリスマスの買い物で賑わう繁華街に突如として現れて、小さな子供たちを怖がらせたりすることだ。暗くなってからスタートするハロウィン行列と違い、サンタコンは日中に開始する。日頃の憂さを晴らすため、昼間から酔いどれて騒ぐのが面白いのだ。サンタの衣装もそれに一役買っている。仮装していなければ、とてもあそこまで羽目を外せないだろう。というか、どこかで自制の気持ちが働く。赤いサンタクロースの衣装に、赤い帽子やアゴひげをつけ、どの人も同じ格好をしているから、何をしても怖くないし、気分が高揚するのだ。
 ところが世の中には、そういうことを面白く思わない輩が必ず存在する。今年は、ウェストサイド区住人からの苦情によって、ニューヨーク市警が、南北50ブロックに渡って同地区で営業するバーやクラブの経営者に、「サンタコン実施中は、イベント参加者に酒を飲まさないで欲しい」という御触れを出した。
 ニューヨークには、大晦日を除いてもうひとつ、街中が酔っぱらいで溢れる日がある。“聖パトリック”の祝日だ。アイルランドにキリスト教を広めた聖者の命日で、信者でない人も緑色のものを身につけてお祝いする。が、この日にバーで酒を飲ますなという御触れが出たことはない。この都市には、アイルランド系の警官や消防士が多いからだ。公共の場を荒らしたり、汚したりすることは良くないことである。しかし、時には市民がこんな風に羽目を外す日があってもよいのではなかろうか。それを「バーで酒を飲ませるな」とは、野暮の一語に尽きる。
(たんのあけみ・NY在住)
2014年冬号掲載

月刊 酒文化2014年02月号掲載