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お酒も一極集中

 お酒とは直接、関係のない話からはじめる。「韓流ブーム」でもご承知のように、韓国では映画がなかなか隆盛だ。その結果、ヒット作ともなると「観客動員一千万人突破!」もしばしばある。韓国の人口は約四七〇〇万人だから、一千万人以上が見たとは大変な数字だ。全体主義国家ならいざ知らず、普通の自由民主主義国家では異例のことだ。何がいいたいかと言うと、韓国はそれほど集中度が高い社会というわけだ。
 ぼくは一九七〇年代に初めて韓国にきた時、韓国人がほとんどみんな焼酎の「眞露」を飲んでいるのに驚いたものだ。当時は政府の政策で焼酎メーカーのシェアーを地域ごとに配分していたせいでもあるが、ソウル首都圏では「眞露」一色だった。その結果、日本では韓国のお酒イコール「眞露(ジルロ)」というイメージになってしまった。
 その後、焼酎市場は自由化され、ソウルをはじめ各地で各種の銘柄を飲めるようになった。しかし慣れとは恐ろしいもので、ソウルを含め全国的に今なお「眞露」のシェアーは圧倒的だ。もちろん「眞露」も最近は「チャミスル」という純ハングル名になっているが。
 ソウルの人口は全人口の二〇%以上で首都圏としては全人口の四〇%が集中している。しかも伝統的に中央集権国家であるため、富もソウル首都圏に集中している。その結果、お酒の消費も首都圏集中だ。そこで韓国の「焼酎シェアー戦争」もソウル首都圏が決戦場になる。
 最近、ソウルの焼酎市場の話題は「アンチ眞露」の斗山グループが売り出した「チョウムチョロム」。名前の意味は「初めてのように」だから、いくら飲んでも最初の味のように味が変わらないーといった意味だろうか。
 この焼酎の話題のポイントは、アルコールの度数を二〇%とこれまでの焼酎としては最低に下げたことだ。「チョウムチョロム」の前身で同じメーカーの「サン(山)」より一%低い。大ライバルの「チャミスル」が今年、二一%から二〇・一%に落としたことに対抗したものだ。最もソフトな味ということで、ライバルに迫ろうというわけである。
 韓国焼酎は近年、低アルコール競争が続いている。冒頭に紹介した七〇年代の二五%からは相当なダウンである。後はどこが最初に二〇%を切るかが関心の的になっている。ただ、韓国人たちは焼酎はすべてストレートで飲むから、それでも日本人にはきつい。韓国で焼酎をお湯割りにしたりオンザロックで飲む人はいない。みんなストレートでぐいぐいやる。男らしさの誇示にはなるが、女もこれだから習慣なのだろう。
 韓国人が焼酎を水やお湯で割らないのには、別のほんとの理由があるのかもしれない。あれだけ甘ったるい味だから、水割りやお湯割りではしまりがなくて飲めないだろう。
 「チョウムチョロム」のもう一つのセールスポイントは、アルカリ水を使っていることだ。アルカリ水は二日酔いにいいのだとか。韓国でも近年は何かにつけ健康、健康で「体に優しいお酒」が売り物である。
 というわけで新製品「チョウムチョロム」が話題で売れ行き好調というのだが、それでも意外にシェアーは小さい。伸びたといっても全国でのシェアーはまだ一〇%にも満たない。これに対しライバルの「チャミスル」は依然、五〇%以上を維持しているという。「眞露」に始まる韓国人の味の集中度は恐ろしい。
(くろだかつひろ:産経新聞ソウル支局長)

月刊 酒文化2006年07月号掲載