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進化するホットな酒

 スロヴァキアの首都ブラチスラヴァ、昨年末にクリスマスマーケットに行く機会があり久しぶりに訪れた、ブダペストからは列車で約2時間だ。
 クリスマスマーケットは旧市街の中心にあるフラブネー広場で開催されていた。中心部には軽食やドリンクの屋台が集まっていて、立ち食いが出来るテーブルもつくられている。その外側にはクリスマスの飾りやプレゼントになる雑貨などを売る店がぐるりと取り囲むように並んでいる。
 クリスマスマーケットのドリンクと言えばホットワインと思っていたのだが、スロヴァキアではクリスマス・パンチ(スロヴァキア語ではヴィアノチェニィー・プンチェ)が風物詩、もちろんホットワインあるのだけれども、見渡すと多くの人がクリスマス・パンチを飲んでいる。
 赤ワインをちょっと明るくした色合いの液体にフルーツの欠片が浮かぶクリスマス・パンチ、ホットワインとの違いは何なのだろうと思って、クリスマスマーケットに一緒に行った現地の友人に聞いたら「クリスマス・パンチにはいろいろ入っていて、クリスマスの時期だけ飲むんだよ!」かなりおおざっぱに教えてもらった。あとから調べてみると、ワインがベースだけど、リンゴやオレンジ、レモンなどの果物や果汁、砂糖、もしくはハチミツ、シナモンやクローブなどのスパイス、そしてラム酒、もしくはウォッカが入っている、紅茶の入ったレシピもあった。確かにいろいろ入っていて豪華な雰囲気、クリスマス期間だけの特別なドリンクなのも納得する。
 もうひとつスロヴァキア特産の酒がある、それは「メドヴィナ」と呼ばれるハチミツ酒、水で希釈したハチミツを発酵させた酒で、ハニーワインと呼ばれる事もある。ワインの生産が難しかった地域で古くから作られている酒で、特にポーランドのハチミツ酒「ミュウト・ピトニィ」は有名だ。クリスマスマーケットではこのメドヴィナをホットで飲む事が出来る、金色の液体はほんのり甘く思ったより軽い口当たり、冷たい風の空気の中で一息つけるやさしい味だった。メドヴィナは贈り物にもなるので、ボトルに入ったメドヴィナを並べた店がクリスマスマーケットにはいくつも出ている。
 このハチミツ酒、スロヴァキア、ポーランド、チェコでは特産だが、ハンガリーではつくられていない。スラブ系民族に伝統的に伝わる酒なのだろう、こんなふとした事で、民族の地図が浮かび上がってくるのは本当に興味深い。
 さて、ブダペストのクリスマスマーケットでも、ここ数年はスパイスが香るホットワイン「フォッラルト・ボル」だけでなく、様々なホットドリンクが登場している。あまり耳にする事の無いドリンクもあり、ある店では「グロッグ」がラム酒入りの紅茶と言われ、別の店では「プンチ(パンチ)」はラム酒入りワインと教えられ、それらは実は店によっても違いがあるらしく「チェリーのグロッグ」や「黒すぐりのプンチ」なんて書いてあると、どんなドリンクなのかいまいちピンと来ない、店の人にいろいろ質問している地元の人も度々見かけたほど。
 また、最近ではイチゴやサワーチェリー、ローズヒップのワインなども祭の出店などで見かけるようになってきて、それらをホットで提供している屋台もクリスマスマーケットには数軒あった。ハンガリーらしくパーリンカ(果物の蒸留酒)を各種揃えた屋台もある、そこにはホット・パーリンカの看板もかかっている、さらに「ラズベリー・パーリンカ・プンチ」なんて看板を目にして、ホットな酒が新世紀に突入している事をひしひしと感じたのである。
(すずきふみえ・ブダペスト在住)
2014年春号掲載

月刊 酒文化2014年05月号掲載