ワインが州を超えた

 二〇〇五年五月一六日アメリカの最高裁判所において、他州にあるワイナリーから直接ワインを買うことを認める画期的な判決が五対四の僅差で可決された。これは非常に大きな意味を持つ。
 まず背景を説明すると、日本では他県にある酒メーカーや問屋からでも人々は自由に酒を買うことができる。電話やネットを介し、郵送してもらうこともできる。しかしアメリカにおいてはこれまでおよそ半分の州で、これが法律で許されていなかった。他州にあるワイナリーからワインを直接買うことはできなかったのだ。この判決が出るまでは、まずワイナリーが買いたい人が住んでいる州にある問屋へワインを売り、それを小売商へ卸し、初めて消費者の手に渡るという方法しかなかった。
 さらに通常、アメリカの問屋は小売をすることができない。多くの小売店が、販売意欲を示すような一定の量が見込めなければ問屋は扱わない。その州に住む人々は欲しくても他州のワインを手に入れることができないという状況だった。また州は問屋から酒税を徴収しているので、このシステムはそうそう変わることはないだろうと思われてきた。
 ネットビジネスの発展に伴い、これまで多くの罰金が科せられ、訴訟がおき、逮捕者まで出してきたこの問題は、最終的に最高裁判所の判断を仰ぐこととなり、そして今、全てが変わったのである。
 結局は経済的な理由だ。最高裁判所が出した判決は「州は、州内のワイナリーに商品の郵送を許可している限り、他州のワイナリーによる直接郵送の商売を禁じることはできない」というものであり、その理由は「州内のワイナリーを不当に有利な立場におく」、そして「州は互いの商売の自由を妨げてはならないと合衆国憲法に記されている」からという。なんとワインの販売で、話が憲法にまで及ぶなんて!
 後は各州の決定によるが、もちろん全てのアルコールの郵送を禁止するということもできる。しかし州内はOK、他州からは駄目、とはできない。つまりオールORナッシングなのである。
 これはワインの話なのだが、もちろんビールや日本酒にも同じことが当てはまるだろう。州内の取引を許可するのなら、他州からの郵送も禁じることはできない。そして重要なポイントとして、普通、人々がネット等を介して他州からでも手に入れたいと思うものはワイン、地ビール、そして日本酒なのだ。
 さてこの判決がこれからどんな影響を及ぼすのだろう? 僕が思うに、アメリカにおけるネット商売のブームは去っている、いや落ち着くところに落ち着いたとでも言うべきか。それに奮発して高いワインや日本酒を買おうと思うとき、やはり誰かと話をしアドバイスを受けたがる。だから量的にはさほど大きな影響は与えないかもしれない。でもこの判決によっておいしいお酒の入手がより容易に、そしてより安全になることは確かだ。
 アメリカで日本酒のネット販売を手がけ、特に元気なのがwww.sake.nu.。ここでは約五〇種類の日本酒がリストに載っている。そしてこれから全米にむけて積極的に販売を展開していくだろう。判決が出る前は法的な問題を抱えるのを避けるため、特定の州にしか郵送を行っていなかったが、もう心配は無用なはずだ。
 この変化によって、アメリカで日本酒の認識度が高まることを期待しよう。
(ジョン・ゴントナー:日本酒ジャーナリスト)

月刊 酒文化2005年09月号掲載