任命運転手

 タクシーのドアに貼られた大きなシール、飲酒運転をすると罰金五〇万円という文字。アメリカも日本同様、飲酒運転に対して厳しいルールがある。
 クリスマス休暇で故郷のオハイオ州に里帰りをしたとき、僕の車に近づいてきた対向車の、遠くからでもやたらと目立つ黄色のいナンバープレートを指差して弟が言った、「あれは飲酒運転で何度も捕まった奴だ」。たしかに周りは白い普通のプレートをつけた車ばかりの中で、黄色地に赤の文字は相当注目を浴びている。その運転手は飲酒運転で捕まったことがあると一目でわかるので、皆、その車からは車間距離をとるだろうし、警察の目も届きやすい。
 DUI(アルコールや薬物を飲んだ状態での車の運転)に対するアメリカの法律は今でこそ厳しさで知られているが、昔はすこし様子が違った。二五年位前までは一八歳から飲酒が認められていたのを、国が強引に二一歳に引き上げたのだ。
 確かに一八歳という年齢には問題があった。なぜなら多くの高校生が最終学年の間に一八歳になるからだ。そして飲酒運転で大事故を起こしたりなど、問題を引き起こしていたのはほとんどが高校生だったので、「高校生が飲酒をしても合法」という点を改正するために法律は変えられたのだった。
 その頃から刑罰も厳罰化していった。またオハイオの話で申し訳ないが、オハイオ州はまさにこのムーブメントの先鋒だった。州政府は飲酒運転に対し、たとえ初回であっても、罰金と運転免許剥奪はもちろんのこと、三日間の刑務所行きを制定したのだ。今現在ではほとんどの州が同様の法律を定めている。つまりDUIのテストに引っかかった者は、たとえ事故など起こしていなくても、刑務所に送られる(州によって日数は異なる)ということだ。ここまで厳しくなると人々はあえてリスクを負うことはしない。誰だって前歴はつくりたくない。たしかにこの法律は飲酒運転を思いとどまらせるのに役立っている。
 そして人々の「酒とのつきあい方」にも変化が現れてきた。たとえば複数で飲みにいく場合は「任命運転手」を決めてから出かけるのも当たり前になってきた。これはどういうことかというと、だれか一人を運転手と決め、運転手になったものはアルコールを飲まない、ということだ。
 これをサポートするバーやナイトクラブも増えてきた。たとえば任命運転手には無料で飲み物をサービスする。入り口で任命運転手の手に大きなバツのスタンプを押す店もある。ワインのテイスティングでも任命運転手の入場料は半額です、と宣伝しているのを見たことがある。
 前記した黄色のプレートの話は、恥をかかせるためというよりは、安全を考慮して行われている。しかし別のところではまさに「恥をかいてもらう」ことで飲酒運転を減らそうとしているところもある。
 舞台はテネシー州。今年から施行される法律はこうだ。飲酒運転で捕まった者は二四時間の州道脇の掃除を命じられる、しかも「I am a drunk driver」と大きく刺繍された派手なオレンジのベストを着なければならないのだ。そしてこれは初回の逮捕者に命じられる。最初に捕まったときにこんな恥ずかしい罰を受ければ二度と同じことはしないだろう、という目論見らしい。これが絶大な効果を表すかどうかはわからないが、たしかにユニークな法律ではある。
(ジョン・ゴントナー:日本酒ジャーナリスト)

月刊 酒文化2006年03月号掲載