サケカクテルにストップを

 米国で日本酒人気が高まってきているが、サケカクテルの人気も高まってきている。アメリカ人はまだあまり日本酒をよく知らないが故に、この新しい創造物に対してとてもオープンなのだ。
 フュージョン系のレストランやバー等では店ごとに個性あるカクテルを産み出している。その中でも特によく聞くのは「サケティーニ」、ジンの代わりに日本酒を使ったマティーニだ。それからNYの友人からもらったメールには、近ごろは「ニゴリティーニ」なるものが登場しているとあった。にごり酒と、「Triple Sec」というリキュールに、スプライトをほんの少し。そこへきゅうりのスライスを浮かべるらしい。
 しかし、僕は声を大きくして言わなくてはいけない、サケカクテルには反対していると。その理由は「イメージ」だ。僕たちが伝えようとしている高品質な日本酒のイメージは、微妙で洗練された、優雅な味わいを持つ、嗜好品としてのアルコール飲料。それなのに何かと混ぜ合わせてカクテルにしてしまったら、もう酒そのものを味わうことはできなくなってしまうじゃないか。酒のもつ上品で、純粋な側面をとらえることはできなくなる。
 あまりワインと比較しすぎるのもどうかとは思うが、ワインも日本酒も多大な努力と忍耐を持って育てられた農産物を使って造られており、そして土地や地方との結びつきも深い。それぞれが独自の香味の幅を持っているという点でも共通している。特に吟醸酒のようなレベルの酒は。
 こんなことは言うまでもないが、ボルドーやバローロなどからやってきた素晴らしいワインをカクテルに使っている人は見たことがない。新世界ワインだって高品質なものはみんなそのまま飲んでいる。誰も、これを使ってカクテルをつくろうとは思わない。
 だが、アメリカ人は未だに高品質な日本酒の本当の価値に気がついていないのかもしれない。だからサケカクテルを一生懸命プロモートしている。僕たちは日本以外の国に住む人々にも手遅れになる前に「教育」を施し、サケカクテルは日本酒の正しい楽しみ方ではないということをわからせなくてはならない。
 ところが最近はサケカクテルを勧めている酒蔵もある。僕は個人的にフランスのワイン醸造に携わる人々が、自分たちが手塩にかけて造ったワインを、カクテルの材料の一部に使ったらどうかと言っているのを見たこともなければ聞いたこともない。酒蔵は強いプライドを持って、サケカクテルに対抗するのが本当の姿じゃないだろうか。
 サケカクテルは決してうまくないわけじゃない。それに経験を積んだバーテンダーから「酒は何にでも合うし、カクテルのいい材料だよ」と言われたこともある。でも僕はそれ以前のことを言っているのだ。
 またサケカクテルで日本酒の味をおぼえれば、いずれそれを卒業してうまい日本酒を愛するようになるという人もいる。でもこれは疑わしい意見だ。なぜならワインクーラーを飲んでいた人が卒業して、ブルゴーニュの味がわかるようになるだろうか? ただ別のカクテルに移行するだけじゃないか?
 僕は、皆が楽しんでいるのだからトコトン否定するつもりはない。それよりも、僕は高品質な日本酒の真の姿を理解したいという人々を応援したい。日本酒の中に広がる深い世界を見つけてほしい。それはサケカクテルの中には見つからない。
(ジョン・ゴントナー:日本酒ジャーナリスト)

月刊 酒文化2006年01月号掲載