アメリカ的な日本酒

アメリカには現在五軒の酒蔵がある。四軒はカリフォルニア州に、残る一軒はオレゴン州にある。そのどれもが日本にある酒蔵に関係しており、月桂冠、大関、宝、そして兵庫県の八重垣がカリフォルニアにある蔵を、そして青森県の桃川が オレゴンの蔵の酒造りに関っている。
 この夏、僕は故郷オハイオ州へ里帰りした際、久し振りにオレゴンの酒蔵と連絡を取り合った。少し前に経営者が変わったこともあり、新しいメンバーとはまだ話をしていなかったのだ。蔵の名前は「Sake One」。彼らはこの名称の酒、それから桃川の名前も使って酒を売っている。
 僕が夏の間米国にいると言うと、彼らは早速新しい商品、「G」のサンプルを送ってきた。これが実にアメリカ的。味も、パッケージも、アメリカ人が酒に求めるテイストを如実に表していると僕は感じたのである。
 その酒はアメリカの米を使いアメリカで造られた。細かなプロセスは定かではないが、けっこう美味しかったので正直驚いた。今までAいた米国産の酒の中では五本の指に入るだろう。清らかで、味も香りも良いが、原酒なのでアルコール度数は一八%、パンチがある仕上がりになっている。造り手がアメリカ人の好みを意識し、大胆でパワフルなものを目指したのは明らかだ。
 アメリカ産の赤ワインもくっきりとしていて香りも派手なものが多い。地ビールだって同じだ。大麦の味が前面に出て、ホップのアロマが際立つものが好まれる。アメリカではそんな大胆な味わいが好まれ、「G」はそれを意識して造られたに違いない。パッケージもよく考えられており、味やコンセプトと一貫性がある。背の低い、ずんぐりで角ばった瓶。到底、酒には見えない。そして真っ黒。故にシンプルで、そしてパワフルさが強調される。まさにアメリカ人好みだ。
 ラスベガスのMGMグランドホテル内の「SHIBUYA」の酒ソムリエのスワンソン氏ともこの酒について話をしたのだが、彼もまた「完全にアメリカ市場向けだ」と言い、ついでに「店で一番出るアメリカ人好みの酒のリストを見せようか?」とも。それはもうとても「強烈でパワフルだということが一目瞭然」らしい。
 彼もずいぶん酒をAいてきたおかげで、今では落ち着いた味わいのものが好みだと言う。そして概して彼の好む酒はお客さんにはウケないので、これからはどうやって自分が美味いと思うものをお客さんに伝えるかがポイントだと教えてくれた。
 それから「G」を造った蔵の代表者とも話をした。彼が言うには、まず米はカリフォルニア米を何種かブレンドしたもので、精米歩合は約六〇%。異なる酵母で造ったいくつかの仕込みをブレンドさせたものだ。彼らは早い段階でどの仕込みをブレンドさせるかを決め、一〇ヶ月熟成させた。それが「複雑な味わいを生んだ」と言う。それからあまり驚くには値しないが、造り手は皆ワインを造ってきた人々らしい。
 彼らは今年の暮れに向けて、また違うタイプの「G」を造るために、日本から山田錦を取り寄せる予定だ。うーん…それはまたずいぶん高い商品になるだろうなと僕は思ってしまった。彼らがどう進めていくかを興味深く見守りたい。
 「G」は最近発売されたばかりなので、どれだけ売れるかはまだわからない。でもまったく新しい酒のスタイルで値段もそう高くないとくれば、もしかしたらかなりいい所までいくかもしれない。
(ジョン・ゴントナー:日本酒ジャーナリスト)

月刊 酒文化2005年11月号掲載