和食店じゃなくても日本酒が飲める

 日本からアメリカに輸出される日本酒は相変わらず好調。今回はそれに関する最も新しいデータと、アメリカ人の嗜好に関する最近の調査報告をお伝えしよう。
 資料によると〇五年一一月時点で出された予測において、〇五年のアメリカにおける日本酒の輸入量は約三〇七二s。量的には前年度に比べると二二%の増加。けれどももっと興味深い点は一rあたりの値段が、前年度に比べると三二%も高いこと。一rあたりの値段は量より一四%も早く上がっているのだ! つまりアメリカ人がより高いものを(良質なものを)飲んでいるということだ。
 なぜか? なぜ急速にアメリカが日本酒の大きなマーケットになってきたのか? それにはいくつかの理由が考えられる。まず日本食を好むアメリカ人が増加したこと。健康的なイメージばかりでなく、日本食はファッショナブルなのだ。また、日本食と切り離しても日本酒に興味を持つ人も増えてきた。ワインにこだわる小売店でも日本酒を扱うようになってきたので、買って帰り、家でのんびり楽しむ人も増えてきた。それで、高名なワインのソムリエ達や高級レストランが、時代の流れにのらなくてはと、日本酒を学び、少なくとも一、二種の日本酒はワインリストに加えるようになってきた。この動きはまだ始まったばかりだが、これからの日本酒マーケットの大きな要になるだろうと僕は予測している。
 それから日本の蔵元が熱心に輸出の道を探り、アメリカやその他の国にむけて発信しているからだ。ただルートを確保するだけでなくセミナーやA酒会を開催したりと、精力的なフォローアップも行っている。
 こうしたいくつかの要因が重なりあい、アメリカの日本酒市場の拡大に貢献しているのだ。
 他にも、去年JETROが行った調査報告にも興味深いことが書いてあった。日本食のレストランにおけるアルコール飲料の消費についてのレポートで、〇五年の八月に、ロスで三一軒、ラスベガスで三軒、NYで三一軒、シスコで一九軒、シカゴで一二軒の店を対象に行われた。それによると、「半分以上のお客様が何らかのアルコール飲料を注文する」と回答したレストランが八四%にのぼり、そのうち「半分以上のお客様が日本酒を注文する」という回答が一六%、「三〜四割」との回答が五七%にのぼったというのだ。日本食のレストランでいかに多くの人が日本酒に親しんでいるかがおわかりいただけるだろう。
 さらに、燗酒の注文割合の変化も注目したいところだ。「フード業界情報USA」という業界紙の調査では、二〇〇〇年までは「八割以上のお客様が燗酒」と回答したレストランが六割を超えていた。それが二〇〇五年には一七%に激減、一方で「冷酒の注文のほうが多い」という店が五割近くにまで増加しているのである。
 いまでも燗酒の人気はたしかに根強い。ただ、燗酒につかわれる酒は米国内では冷酒に用いられる酒よりも安価なものがほとんど。もう少し燗酒も味わいを重視してくれるとなおよいのだが……。とにかく酒を手にとって飲んでもらうという観点からすると、日本酒市場には燗でも冷でもありがたい話だ。
 日本酒人気はどこまで続くのか、予測はなかなか難しい。洪水状態になる日もやってくるのだろうか? でもありがたいことに日本酒の多くは大都市で消費されている。広いアメリカにはまだまだ開拓されるのを待っている街がいくらでもある。
(ジョン・ゴントナー:日本酒ジャーナリスト)

月刊 酒文化2006年04月号掲載