リサーチと消費量の不思議

 アメリカに「ギャロップ」という、一般的なアメリカ人なら誰でも知っている世論調査を行う組織がある。彼らから興味深い結果が先ごろ報告された。初めて、アメリカ人が選ぶアルコール飲料第一位がビールではなく、ワインになったというのである。
 アルコールを嗜むアメリカ人のうち三九%がワインを一番良く飲むと言い、ビールと言ったのは三六%であったという。残りの人々はその他のアルコール飲料を好み、そしてその三種を等しく好むと言ったのはほんのわずかであった。
 何故ワインがこんなにも好まれるようになったのだろうか? 八〇、九〇年代を経てより多くの人々がワインを選ぶようになってきているのは何故なのか? 一番大きな理由はそのイメージだ。ワインを飲むことによって人々はより洗練された、教養のある、上品な気分になれるからだ。その他の要因として、高品質なワインの値段が過去二〇年間に一般人にも手の届く価格に下がったことも挙げられる。 また、昨年は「サイドウェイ」という映画がヒットした。中年の危機に陥った男の話だが、彼の持つワインの知識とワインへの情熱が人々の関心を集め大きなワインブーム(特にピノ・ノアール)を沸き起こしたのだ。
 ではビールはどうなっているのか? 調査によると、ビールはいまだに多くの人に飲まれているが他のアルコールに押され気味で、この一〇年の間に市場シェアを少しずつ失ってきている。その要因としてワインの他にもカクテルの台頭がある。三〇代以下の若者はビールよりもはるかにスピリッツを好み、ほとんどカクテルの形で消費しているのだ。
 と、これまでは調査結果の話。実際の売上に関する数字を見てみると事態は異る。昨年、二億八〇〇〇万ケースのビールが消費され、ワインは二七〇〇万ケースだった。ということは、ギャロップが調査した人々が何を言ったにせよ、いまだにビールはワインの一〇倍以上消費されていることになる。
 だが消費量の前年比は、ワインが三・七%増、そしてビールは〇・六%にとどまっている。たしかにワインは躍進しているのだ。
 普通に考えて、全米にある野球スタジアムや大学付近のバー、ごくごく普通のバーなどではビールがまだ不動の一位だ。ギャロップがいつ、誰を対象に、どのような調査を行っているのか定かではないが、どうやら調査はスタジアムなどでは行われていないのだろう。しかし、ワインが以前よりはるかに人気を集めているのは事実だ。これは何を意味しているのか? 思うに一番重要なのは、アメリカ人全体が何を飲むかということにより注目するようになってきたという点だ。ただ安いものを買って酔うためだけに飲むのではなく、嗜好品としてアルコール飲料を考えるようになってきたのだ。
 そしてこれはアメリカにおける日本酒マーケットにもいい影響を及ぼすだろう。まだ日本酒の消費量は少ないが、その成長率は過去五年間で平均一二・六%増というものだし、それにまだ成長は始まったばかりという感覚なのだ。人々がより嗜好品にこだわりを持つようになればなるほど、そしてこだわることによって洗練された気分になれることを楽しむようになればなるほど、日本酒のマーケットの成長が期待できるのだ。
 ギャロップが日本酒の消費に関する全米市場調査をするのはいつだろう、と僕は楽しい想像をしている。
(ジョン・ゴントナー:日本酒ジャーナリスト)

月刊 酒文化2005年10月号掲載