パーティ・ピープル

 何につけ酒を振舞われることの多い日本と違って、アメリカでは公然と、回りを気にせず酒を飲める日というのが決まっている。まず“ニューイヤーズイブ”(大晦日)だ。米国内におけるシャンパン売上の八割がこの夜に消費されると言われるほど、お金持ちもそうでない人も一様にシャンパンを飲む。シャンパンというといかにも高級そうに聞こえるが、スパークリングワインであれば一本一一ドル前後で手に入る。大晦日の夜、友人知人のパーティに招かれた人は、たいがいシャンパン(あるいはワイン)を持参する。そして元旦の朝まで飲んで浮かれるのである。
 もうひとつは、七月四日の独立記念日。筆者の住んでいるニューヨークには、なぜかアメリカ人が一年で一番酒を飲むニューイヤーズイブと独立記念日に、世界中から何十万、何百万という人が集まってくる。マンハッタン島の東を流れるイーストリバーで大きな花火が打ち上げられるからである。
 独立記念日のパーティが、ニューイヤーズイブと違うのは、主催者もゲストも服装がいたってカジュアルなこと。というか、ほとんどがTシャツ、短パン、サンダルばきでやってくるのだ。その点、ニューイヤーズイブのパーティはぴんからきりまであって、タキシードにイブニングドレスのフォーマルパーティもあれば、よりうちとけたパーティもある。七月四日はそれと比べるとずっとくだけた感じだ。というのも多くのアメリカ人家庭では、ゲストを招いて、自宅の庭でバーベキューをするのがならわしになっているからである。
 こうしたホームパーティの定番の飲料として、一四、五年前まではホームメードのパンチ(ワイン、スピリッツをベースにして、各種リキュール、フルーツやジュースを加えてつくる、ポピュラーなパーティ用ドリンクで、一度に多人数分つくることが多い)が出されていたが、最近ではすっかり見かけなくなった。その代わりに、カクテル用のミックスを揃えて、ウォッカやテキーラやジンをボトルごとテーブルに並べるところが増えた。一晩中ミキサーを回して、フローズンマルガリータやダイキリを作る所もある。カクテルなしで、ビールから即ワインに移行し、ハードリカーは一切出さないという所もある。あるいは、最初から最後までワインというパーティも最近はよく見かける。
 手土産はワインが主流。そのため酒販店では、贈答用ワインバッグやカードを用意し、売上向上を図っている。ワインは、相変わらずカリフォルニア産に人気があるが、南米や豪州産にも人気が出てきている。ビールは大衆銘柄ではなく、ブティックビールと呼ばれる地ビールやレトロビールを持参することが多い。
 筆者の場合、年二回、イースト川沿いに住む友人のところによばれて花火を見ることが歳時記となっている。夏この辺りは日没が遅いので、花火は九時にならないと始まらない。東の空に打ち上げられる花火の艶やかさに、酒を飲む手も休めてしばしうっとり。その感動もさめやらぬうちに周りを見回すと、やや、人がいない。そう。これがニューヨーク名物のパーティのはしごである。どこも朝まで飲み明かすのはわかっているので、一晩に何ヶ所も平気でパーティをオーバーブッキングするのだ。感心するのは、姿をくらます時のタイミングの良さ。人生はビーチだと言った人がいたが、マンハッタンでは、人生はパーティ、である。
(たんのあけみ:食コラムニスト、NY在住)

月刊 酒文化2006年09月号掲載