スーパーのセルフサービスワイン

 ペンシルベニアのスーパーが、イートイン(飲食スペース)にワイン自販機を入れたというので見に行ってきた。店内にレストラン&パブをオープンして話題になったウェグマンズというスーパーだ。ウェグマンズは、日本のスーパーのお手本にもなっている有名店である。スーパーの経営者でこの店を知らない人は、はっきり言って勉強不足か、あまり重要な役職についていない人だろう。
 二〇年前、パリの下町の市場をイメージして作られたウェグマンズの「マーケット・カフェ」には、プロのシェフが作ったグルメ総菜や高級ペストリーが形よく並べられ、薪窯で焼いたアルチザンブレッドやエスプレッソコーヒーのアロマが漂っている。従来店の二倍の大きさながら、週末はひどい混雑で駐車するのもままならないという米屈指の繁盛店だ。
 目当てのセルフサービス機は、一五〇名を収容できるという中二階のイートインの中央にあった。おしゃれな木製什器の中には、グラスと八銘柄の赤白ワインが入っていた。レジで買ったプリペイドカードをスロットに入れると、好みのワインが選択できるようになっている。感心したのは、試飲、半グラス、フルグラスとワインの量が選べるることだ。商品は、八〜一四、五ドルのテーブルワイン。一杯五〜七ドルで、半グラスはその半値だ(試飲は一、ニドル)。もしこの実験が成功すれば、スーパーでワインを飲みながら夕食を食べるという時代がやってくるだろう。
 これに先がけウェグマンズでは、ワイン自販機のテストも実施している。身分証明書と血中のアルコール濃度の検査が必要な機械だ。本人の確認は機械ではなく、自販機に備わったカメラを通して係員がチェックしている。閉口したのは、アルコール濃度を計る機械だ。ハアッと息を吐いたが、コンピュータがダメだしをしてきたので、酸欠になるほど強く吹きかけたらやっとオーケーが出た。これにはちょっとむっとしたが、システム自体は実によく設計されていた。商品情報も広くて深いし、地元産のワインもフィーチャーしている。これだけ手の込んだ自販機を作るのであれば、地元商品を宣伝しない手はない。
 問題は、税金の他に一ドルの手数料が取られること。設備費ということなのだろうが、税金の二重取りという気がしなくもなかった。こうした自販機が主流になる日が来るとは思わないが、時代が少しずつ移り変わっていることは確かである。
(たんのあけみ・NY在住)

月刊 酒文化2011年09月号掲載