先月休暇でニューヨーク州北部の小さな村に滞在した時、家族やレアものウイスキーに目のないオランダ人の友人を伴って、「タティルタウン・スピリッツ・ディスティラリー」という地元の蒸溜所を訪ねた。ニューヨーク産のトウモロコシやライ麦を使った「ハドソン・ウイスキー」という、なかなか味わいのある“スモール・バッチ”バーボンやコーン、ライ・ウイスキーを造っている。
しのつく雨の中、さんざん迷ってたどり着いたのは、こんもりと木の茂った集落の入り口に立つ小さな蒸溜所だった。聞けば、10年ほど前に古い製粉所跡地を手に入れ、それを蒸溜所に改築したものらしい。3�任療效呂坊�つその建物は、220年以上の歴史があると、店番をしていた女性が話してくれた。
工場見学の開始時間に間に合わなかったため、残念ながら蒸溜所内の見学はできなかったが、日頃「ハドソン・ウイスキー」を愛飲しているオランダ人は、あまりにも工場が小さいので驚いていた。
友人いわく、ここのウイスキーは“原材料の味がする数少ない米国産のウイスキー”とのこと。少し前までニューヨークでもなかなか手に入らず、それがファン層を拡大した。厳密に言うと原材料は、蒸溜所から半径16㌖圏内の契約農家で収穫されたものを使用している。純粋な意味での地酒だ。経営者は、「環境維持もあるが何よりも経済的」だという理由で地元調達を決めたそうだ。
2基の銅製蒸溜器（スティル）は、ドイツに特別注文したというもの。ここでは製造だけでなく、ラベル貼りや箱詰めまでほとんどが手作業で行われれている。ラベルには、バッチとボトル番号が手で記され、そうした手作り感覚が人気を呼んでいる。熟成には、米国産ホワイトオークの小樽を使用している。原酒が樽と接触する面積を多くするためだ。大半が5ガロン樽（180リッター）で、3ガロン樽（108リッター）もある。
共同経営者のイーレンゾ氏は、ニューヨーク・ロッククライミング界の大御所で、ここをロッククライマー専用の民宿にしようと考えていた。東海岸屈指のロック・クライミング場所が近くにあったからだ。が、彼の長年の夢は、付近住民の反対にあい頓挫。その後思いついたのが、禁酒法以来姿を消してしまった蒸溜所を建てることだった。ちなみに、禁酒法が敷かれる前は、ニューヨークにも1000以上の蒸溜所があったそうだ。
そうと決めると氏は、半年かけてフランスやイタリアやスイスの小さな蒸溜所を訪ね歩き、蒸溜所経営について学んだ。禁酒法以来、ニューヨークで初めてだという蒸溜許可を獲得した彼らは、2006年に第一号の製品を市場に送り出すことに成功した。彼らが突破口を開いてからというもの、追随する人々が跡を絶たず、現在24の蒸溜所が州内でハードリカーを造っている。
「ハドソン・ウイスキー」は、375mlのハーフボトルが5品目あり、41ドル（税抜き）で売られている。価格はやや高めだが、都市部のバーや酒店でよく売れている。「ベビー・バーボン」は、州初のバーボンという謳い文句で販売されている。生産量は、年間4000ケース。従業員は、営業、販売担当を入れて10名。ニューヨーク州では、蒸溜所内での試飲が、4年前から許可になり、タティルトンでも1名10ドルで試飲ができる。工場見学と試飲のパッケージは、15ドル。店の隣では、レストラン兼ベッド＆ブレックファーストも営んでいる。
（たんのあけみ：ニューヨーク在住）
