口コミのパワー

 最近アメリカでホームパーティ復活の兆しが見えている。ホームパーティと言えば、すぐ連想するのはタッパーウェアだ。日本でも六○代に、この米国生まれのプラスチック容器の訪問販売商法が大ブレイクした。少し前に米国で大流行したのは、「ゴールド・ホームパーティ」である。パーティ主催者(ホステス)が、ご近所の主婦や知り合いに声をかけて、不要な貴金属(金、プラチナ、銀のアクセサリー等)を自宅に持ってきてもらい、それを現金で買い取るというパーティだ。指輪やネックレス等を鑑定し、価格をつけるのは、大きなチェーンから派遣されたバイヤーである。巷では、売上の一○%がホステスに支払われると噂されている。なかには五〇〇ドルの謝礼をすると公表して、ホステスをリクルートしている企業もある。
 昨年末のホリデー・シーズンに、こうしたホームパーティをボックスワイン(紙パック入り)の販促に利用したメーカーがある。とは言っても、訪問販売を目的としたこれまでのホームパーティ商法とは違い、そのメーカーの狙いは、ボックスワインに対するマイナス・イメージを払拭することだった。ボックスワインのプレミアム商品(三リッター入り二〇ドル)発売に当たって、同社が考えたのは、いくらマスマーケット対象の宣伝広告に予算を使っても、実際に自社ワインを試飲してもらわなければ、「ボックスワインは(ボトル入り)ワインよりも品質が劣る」という消費者の潜在意識を変えることは不可能だということだった。
 そこで同社は、破竹の勢いで伸びている口コミ専門のマーケティング会社に依頼して、二〇〇〇名のボランティアを募り、ホームパーティを開催してもらうことにした。パーティに必要なワイン等は、メーカーが支給した。が、ホステスに対する謝礼は一切なし(商品の無料進呈や割引きはあり)。その代わりホステスも、商品が気に入らなければ薦める必要はないということを了承してもらった。
 ホームパーティ開催に当たってメーカーがホステスに頼んだのは、ワインはカラフェに入れてサーブし、テイスティングのあとボックスワインだということを発表するということだった(カラフェはメーカーが用意した)。
 同口コミ・キャンペーンを推進したマーケティング会社が、フェースブックやツイッター等のソーシャルメディアを最大活用したことは言うまでもない。米紙によると、キャンペーンを見事成功させたそのメーカーは、昨年暮れにさらに五〇〇〇人の口コミ・エージェントを雇って、ホームパーティ・キャンペーンの第二弾を放ったそうだ。
 米国人の過半数は、情報ソースとして「家族や友人・知人の薦め」をトップに上げている。我が家で飲んでいるワインにしても、知り合いに薦められたものがほとんどだ。酒店やレストランで薦められた銘柄もあるが、数で言えば友人の推薦が圧倒的に多い。多数の米メーカーが、フェースブックやツイッターを宣伝ツールとして注目するのもうなずける。いまやマス媒体全盛期に育ったベビーブーマーですら、商品購入時の判断基準として、メーカーの宣伝文句より消費者の商品レビューのほうを重視する時代である。酒やワインにしても、店頭試飲販売会で、時給で雇われた販売員に薦められるよりも、価値判断のしっかりしている友人の一言のほうがよほど説得力がある。(たんのあけみ・NY在住)

月刊 酒文化2012年03月号掲載