史上最高のロッタリー

 自慢ではないが、くじ運がない。運という運から見放されて生きてきたというと、あまりにもカッコよすぎてさすがに照れるが、去年マンハッタンで開催された某日系人クリスマスパーティでも、二〇枚買ったくじが一枚も当たらなかった。これには、怒りを通り越して呆れてしまった。とはいえ、くじにはどうしても抗えない魅力がある。ロッタリー(宝くじ)がそのいい例だが、あの小さな赤い数字がぎっしり並んだ一ドル券を手にすると、なんとなく当たるような気持ちになるから不思議だ。で、当選者が現れるまで、わくわくどきどきしながら、毎回ロッタリーを買ってしまう(米国では当選番号を選び当てた人が現れるまで週に二回くじを売り出す)。とはいえ、一〇枚買ってもたかが一〇ドル。それで大きな夢が買えるとしたら安いものだ。
 ロッタリーは、管轄の地方自治体に申請し認可を得れば、どんな店でも販売することができる。マンハッタンでは新聞スタンドやドラッグストアで売られているが、郊外では酒販店やコンビニで売られることが多い。今年は、一月から三月にかけて「メガミリオン」の当選者が現れなかったために、どの酒店も夕方五時を回ると、レジ前に長蛇の列ができた。どこの店も一台しか機械を入れていないので、一列はロッタリー客専用、もう一列は酒を買う客に分かれた。やがて昼休みに酒店でロッタリーを買う女性客が増えた。真昼間から若い女性が酒店の前に並ぶというのは滅多に見られる光景ではないが、今回は史上初の六億四〇〇〇万ドル(約五三〇億円)という大型賞金がついただけに、普段はロッタリーに興味のない客層も惹きつけた。こういうときに面白いのは、前や後ろに並んでいる女性達と情報交換できること。以前、あの店で当りくじが出たとか、今回はもう何ドル使ったとか、早くオフィスに戻らなければクビにされる云々。
 四二州およびワシントンDC、米国領バージン諸島で販売されている「メガミリオン」は、一から五六までの五つの数字と、「メガボール」と呼ばれる一から四六までの数字一個を選び、六つすべてが正解しなければならない。最初の頃は、一個一個数字を選んで買っていたが、最近は機械に自動的に選んでもらっている。中には、占い師に選んでもらったとか言って、一〇年以上も同じ数字に賭け続けている人もいる。
 ロッタリーの行列に並んでいる人の中には、バリっとビジネススーツを着こなしたエリートはあまり見ない。中産階級か、それより下のどこか生活臭が漂う客が多い。酒店にロッタリーだけ買いに来ている客はまずいない。大半の客が缶ビールの冷蔵パックか、低価格帯のバーボンやブランデーやジンを手に持っている。タバコを買う客も三人に一人はいる。ブランド物のウォッカや割高な地ビールやワインを買う客もいるが、彼らはロッタリーの列には並ばない。見ていると、負け組(ロッタリー+安酒)対勝ち組(自力本願+高級酒)の図式ができあがっている。
 店がロッタリーから得られる収入は六%。大口のロッタリーが出るたびに酒店やコンビニの売上が倍増する。むろん、ついでに買う酒の売上が大きく貢献している。
 不思議なのは「メガミリオン」の当選者三名が発表になった夜も酒店が混んだことである。当たらなかった不運を嘆き、二ヶ月の短かった夢に別れを告げるために、また酒でも酌み交そうという寸法だ。これだから酒飲みはやめられない。(たんのあけみ・NY在住)

月刊 酒文化2012年06月号掲載