映画界やスポーツ界のセレブたちがワインに入れあげた挙げ句、ワイナリーやシャトーを購入というのは珍しくない。いちばん有名なのは俳優ジェラール・ドパルデューだろうか。30年前にブルゴーニュの小さなワイン畑を購入して以来、1989年にアンジェ市とソミュールの間にあるシャトー・ド・ティニエに投資した。カベルネ・フランとソヴィニョン種で作られているワインで、もちろんロゴにはドパルデューの名前と似顔絵が入っており、売れ行きを上げる理由にもなっている。その後、ル・シャトー・ガデ、ル・シャトー・リュサック・サンテミリオンのほか、モロッコ、アルゼンチン、スペインにもワイン畑を買ったということだ。
美人女優、キャロル・ブーケはイタリアのシシリア、パンテレリア島にワイナリーをもっている。彼女の場合は、子どものころからイタリアに憧れ、ボッチチェリやピエロ・デ・ラ・フランチェスカが描いた美女の前で「イタリア人になりたい！」と願っていたというほどのイタリア贔屓だったということだ。バカンス用にと買った家で過ごし、近所の人々とも仲良くなりワイン談義に。しかし、ワインは今でも男の世界なので、「女にはワインはわからない」という意地の悪い一言を聞いて発奮し、ワイナリーを購入したそうだ。もちろんすべてを専門家に委託しているが、「私の名前を付けるからには、自分の手で作ってみたい」と、畑仕事の第一段階から参加をするという。Sangue d’ oro、金の血という意味で、赤と黄色のシシリア洲旗の色に由来する名をつけた。夏場は40度にも達する、アフリカに近い土地柄、厳めしい荒れ地から、甘口の官能的なワインが生まれるそうだ。
しかし、ワイナリー購入は、今、セレブたちだけの特権ではなくなってきている。8月末のル・モンド紙には「都会人、ブドウ栽培に乗り出す」というタイトルで大きな記事が発表された。都会のブルジョア層の人々で、すでになんらかの分野でキャリアを確立した人々が、ワイナリー経営に乗り出す傾向がでてきているという内容だ。ひと昔まえならば、どのような蔵書を有するかでオネットム（17世紀の貴族社会で理想とされた完成された趣味と作法の持ち主、紳士）としての品格がはかられたものだが、今は、ワインに関する知識、ブドウ栽培の経験もそのような教養のひとつとして考えられるようになっているということだ。
ワインにのめり込んだ挙げ句、2haほどの小さなワイナリー購入し、もちろんワイン造りの専門家にすべてを任しながら、週末、バカンスの間だけワイン製造の過程に参加しに都会から出かけて行く人々、あるいは大きめのワイナリーの一部に投資する人もいる。ワイン製造者は、ブドウ栽培、ワイン製造、経営、販売という大仕事をひとりで担っている。都会に住む経営手腕のある共同出資者が経営や販売を手伝ってくれることで、重荷が降りたという製造者もいる。
フランスの地価は2003年から2006年の間に暴落したが、今でも、まだまだ買い時というのが不動産専門家の意見だ。たとえば、ロワール川流域のトウレーヌ地方ではボルドーやブルゴーニュに比べて地価が割安、ぶどう畑1haが15.000から20.000ユーロ相当だそうだ。都会に近いこともあり、小さなワイン畑を購入する夢をもつパリジャンにはもってこいだ。コート・デュ・ローヌ ヴィラージュはAOC製品に規定されているため35.000から40.000ユーロだが、コート・デュ・ローヌならば20.000から25.000ユーロと割安だ。
パリでウサギ小屋のような20�屬離錺鵐襦璽爐�200.000ユーロで売られていることを考えれば、週末に近郊の数haのぶどう畑でおいしい空気を吸いながら剪定することなど、途方もない夢というわけではなさそうだ。（なつき：パリ在住）
