フランスビールのイメージアップ

 フランスでは、昨年九月から一一月にかけてのビールの売上が、例年より一割増えたそうだ。二〇世紀初頭以来の暖かい秋だったからだろうか? あるいはロンドンで開催されたインターナショナル・ビア・チャレンジでフランスのビール、ベルローズ(Bellerose)が金賞を受賞したからか?
 フランスビール醸造協会の会長パスカル・シェーヴルモン氏によると、フランスはEU諸国二七国のうち第五位のビール製造国であるのに、国民一人につき年間三〇リットルしか飲まず、EU圏ではイタリアに次いで少ない。しかし、ベルギーやドイツと隣合う北部、東部では一人あたりの消費量は平均の二倍あり、大西洋側、地中海側に行くと少なくなって、ビールは夏のバカンス中しか飲まなくなる。
 フランスでいちばん消費量が多い酒はワインだが、時代の移り変わりとともに内容は変わる。日常消費用の安価なヴァン・ド・ターブルは、毎年、約二・四%ずつ減っているのに、産地、セパージュ、ヴィンテージを明記してあるヴァン・ド・ペイは二・五%ずつ上昇。ビールも、三〇年前に比べると二五%も減っているが、今も昔からのレシピに従って、修道院でていねいにつくらているトラピストビールや、クリスマスに売り出される季節ビールは増えている。いずれにしても量よりも品質が重要視される時代になってきているのだろう。
 それだけに、最近の若者たちの暴飲傾向におとなたちは眉をひそめる。英語でビンジ・ドリンキング(binge drinking)と呼ばれる暴飲がフランスでも二〇〇三年頃から社会問題になっている。以前はどちらかというとアングロサクソン系の国の傾向であったのだが、パリの週末の街角でも、泥酔状態の高校生や大学生を見るようになった。そして彼らに圧倒的に人気なのが安いビールなのである。それで残念なことに、ビールには「男だけでワイワイ騒いで酔いつぶれるまで飲む」というイメージが付いてしまった。
 一方で、ビールの女性ファンも増えてきている。おもしろいのは、club des buveuses de biere a talons aiguilles (http://www.buveusesdebiere.com/)ハイヒールをはいたビール愛好家女性のクラブというネットワークだ。ビールの男くさいイメージの対極あるものとして、「ハイヒールをはいた」というフェミニンさを強調したのだろう? ファッションブランド「stella cadente」のデザイナーとして世界的に有名で、かつビール愛好家であるスタニスラシア・クラインが、二〇〇九年に立ち上げた。クローネンブール醸造所の七人のメートル・ブラッサール(ビール醸造を仕切るチーフ)のうちの紅一点、セリーヌ・ショーヴァンさんを招いてのテイスティング、「フォアグラと合うビールは?」など、ガストロノミーとビールの関係を探る講演会など、ファッショナブルなイベントをを企画している。
 古代エジプトにおいては、ビール醸造は女性の特権だったといわれている。母乳の出をよくする効果があるなど、女性とは深い関係がある。フランスで男性がビール醸造を仕切るようになったのは中世以降のことでしかない。
 現在、フランスでビールを飲む女性は消費者の二八%を占めるのみ。年代は三五歳から四九歳にかけての、おとなの女性だということだ。ワインに負けない、シックな飲み方がこれから広まりそうだ。(なつき・パリ在住)

月刊 酒文化2012年03月号掲載