レストランでビール

 今年の初めに、フランスでビールの売上が伸びていると書いた。大麦の輸出量は世界第二位、モルトは世界一位という生産国でもあるが、ビール消費量は少ない。ビール醸造家協会会長のジェラール・ラロワ氏によると、三〇〇から三五〇の小さな醸造所が醸造している地ビールの存在が人気を支えているということだ。コルシカ島では栗ビール、ブルターニュではそば粉ビール、夏はセレブが集まることで有名なレ島では島内で収穫された小麦で作ったビールなど、土地に根付いたビールだ。
 そして、今は、ガストロノミーの世界でもビールがもてはやされるようになってきた。以前はラガービールを午後四時に、ディナーの後には苦みの効いた修道院ビールをということはあっても、ベルギー国境やドイツ国境以外の地域では、食卓でビールを飲むのは気が引けるお国柄だった。ましてや星付きレストランとなると……。
 日本贔屓で有名なアラン・パサール氏。パリの三つ星レストラン、アルページュのシェフとして、料理界に名を馳せる。また、ビストロ料理界に新風を吹き込んだとされるイヴ・カンボナルド氏。このふたりのシェフは、一流レストランのテーブルで、ビールに合う料理を考案した。そして、醸造家のほうもビールの色、泡、味、特徴を表現するのに、ワイン用語を借用してアートな表現を試みるようになった。
 フランスのテレビ番組に料理の腕を競う「トップ・シェフ」というのがあるが、その二〇一〇年度チャンピオンであるロマン・ティチェンコ氏は自分のレストランを「ル・ガロパン」(一二五mlのビールグラス)と名付けた。今年二六歳という若手シェフだが、大のビール愛好家である。抹茶味フィナンシエのキウィ・アイスクリームとハイネケンブロンドビール、キャラメルポップコーンとビール味アイスクリーム、と、その独創的なイマジネーションには際限がない。
 クリエイティブなシェフたちがビールをどんどん料理に取り入れる傾向を反映してのことか、パリ生まれのビールも売上を伸ばしている。一四区のモンルージュ界隈の醸造所で一八九〇年から一九六八年まで造られていたラガービール、ガリア(Gallia)だ。二〇一〇年、約四〇年間の閉鎖を経て、ジャック・フェルテとギヨーム・ロワ氏のふたりによって再発売された。ピルスネ種のモルトを使い、アルコール度五・五度、下面発酵。一九九〇年のパリ万国博覧会で金賞を獲得したガリアをよみがえらせようという試みだ。現在はパリ郊外で醸造されているが、二〇一五年にはパリ市内で醸造したいということだ。(なつき・パリ在住)

月刊 酒文化2012年09月号掲載