真冬のワインいろいろ

 先週末の夜はボジョレー・ヌヴォーが解禁されてバーのテラスが賑わったかと思えば、この週末は、もはやクリスマスの4週間前、アドベンド週が始まる。
 フランスのクリスマスは、日本と比べるともの静かな祝い方をするのだが、唯一、華やかな催しものとしてクリスマス市場がある。大きな教会の広場に、お菓子や、樅の木に飾るデコレーション・グッズ、プレゼント用品などを売る小さな木造の小屋が立ち並ぶ。ストラスブールのカテドラル前の市場は世界的にも名高い。そして、定番なのはクレープやパン・ド・エピスと、日本ではホットワインと呼ばれるヴァン・ショー(vin chaud)だ。どちらかというとドイツやオーストリアといったゲルマン民族の国の飲み物だが、カネルをはじめとした香辛料を入れた赤ワインを暖かくして飲むヴァン・ショーは、フランスのクリスマス市場でも大人気だ。巨大な鍋に入れたワインがグツグツ煮えているのを飲んだら、風邪が一気に治る。
 作り方(6人分)は材料が、赤ワイン1リットル、黒砂糖125g、オレンジの皮を小さく削ったもの1個分、丁字2個、シナモンスティック2本、コニャック10cl(1cl=10ml)。ワインとコニャックを鍋に入れて熱し、沸騰寸前に火を止める。残りの材料を入れてまた暖める。地方によって、レモン、ショウガ、リンゴや胡椒を加えることもある。
 もうひとつ寒いときのワインの飲み方で、シャブロル(Chabrol)というのがある。これはフランスの南西部での習慣だが、スープの残りに赤ワインを足し、お皿に直に口をつけて一気に飲み干すという習慣で、「ヤギのように飲む」という意味合いがある。20世紀初頭の文豪モーリアックは南西部ジロンド県出身だが、このシャブロルを次のように描写している。「牛飼いのアベルは、ニンニクの匂いがきついベーコン入りの熱いスープをほとんど飲み終えた。そして、皿の底に残ったスープに血のように真っ赤なワインを注いだ。脂分が大きな目玉のように広がった。両手で皿を顔までもちあげると、そのなかに、髭もじゃの鼻面を埋めた。家畜、汗、土の匂いが入り混ざった男の身体の隅々に、スープが流れ込む音が響いた。飲み終わると、真っ黒な毛深い腕で口を拭い、押し黙った」拙訳だが、だいたいの雰囲気をわかっていただけるだろうか? 見た目が良くないのと、皿に直に口をつけることはマナーに反しているのでレストランでは厳禁だが、ほんとうに身体が芯から暖まる。オニオンスープがいちばん合うという説もあるが、脂分が多いこってりしたスープに合うように思われる。フランス語では「スープを食べる」という言い回しがあるようにが、飲むというより食べるという感触があるスープだ。例としてリムザン地方のスープをあげる。
 材料:タマネギ、カブ、キャベツ、長ネギ、じゃがいも、脂がのったベーコン、粗塩、ロリエ。
 作り方:鍋に水と粗塩を入れ沸騰させる。材料を入れて45分ほど煮る。大きなスープ皿の底にセーグルパンを薄く切ったものを敷き詰める。その上に野菜とベーコン、そしてまた、ライ麦パンを敷く。スープを注ぎ、しばらく浸してから食べる。
 具がなくなり、スープが少し残ったところへグラス半分の赤ワインを注いで飲み干す。スープ皿にスプーンを反対にして入れ(底が上を向くように)、スプーンの底を覆うまでワインを注ぐ人もいるそうだ。バターを入れる場合もあるが、豚の膀胱に残る脂肪分を入れると、よりこってり味になるということを聞いたことがある。
 このシャブロルだが、フランスでも都会育ちの人々は知らない習慣である。農民、それも、どちらかというと年期の入った男性の習慣である。夜明けに起きて働く農民は、寝起きにコーヒー、その後朝8時か9時にシャブロルを飲むそうで、医者いらずとも言われている。
(なつき:パリ在住)             ■

月刊 酒文化2012年01月号掲載