フランス南西部初のネゴシアン

 フランス南西部のワインというと、ボルドー、ブルゴーニュ、ローヌ、ロワールのものに比べると地味な存在かもしれない。それにこのsud-ouest(南西部)という名前も漠然としていてピンとこない。
 南西部ワインは、ボルドー・ワインが売り切れてから市場に出されるという、長く続いたボルドー優遇政策のために、ボルドーの類似品、代用品といった役割に甘んじてきた趣きがある。しかし、ピレネー山脈のふもとに広がるこの地域には、個性が強く、この地方でしかつくられない伝統品種も含め、約一五〇種類のブドウがある。モンバジヤック、ベルジュラック、ジュランソン、カオール……。近年の技術革新により、長い間ワイン醸造に使われていなかった品種の特徴も見直されるようになり、今、南西部ワインはユニークな存在になりつつある。
 この南西部を総括するネゴシアンがつい最近現れた。弱冠三五歳のリオネル・オスマン氏である。ネゴシアンというのは、一二世紀から一五世紀にかけてボルドーが英国領だった時代に、イギリス人客の好みにあったワインを買い付けるのを仕事とする人々だった。つまり、おいしいワインをつくることはできても営業できない生産者からワインを買い付け、ブレンドし、瓶詰めし、売却する仕事だ。長い顧客リストとともに、ワインにかんする情報力、センスを必要とする。しかし、このようなネゴシアンはボルドーにいても、南西部には存在せず、ほとんどが生産元詰めワインの流通だった。
 オスマン氏は、一〇年にLionel Osmin&Cie社をワイン醸造家の友人たちと創立。農家に生まれたものの、農業そのものを継ぐよりは、南西部のワインを世界中に広めたいという情熱にとりつかれていた。ブドウ栽培農家を一件ずつ訪問する事から始めたが、一二年にはドイツのproweinやボルドーのvinexpoといった大きな展示会に出品し七九万本を売り上げた。そのうち三〇万本はカナダのフランス語圏ケベック州、中国に二万五〇〇〇本を売ったというから、なかなかの凄腕だ。
 「南西部の強みは、他の土地では栽培されていないブドウ品種がたくさんあること。グローバル化によって世界中どこでも同じものがつくられ、好まれるようになってきている今日、これはかえって強みではないだろうか?」と言うオスマン氏は、時代を先取りしている。万人に好まれないことを承知で、南西部ならではの味をわかってくれる人はいるはずという信念は正しかった。
 あまり知られていない、しかし古い歴史をもつブドウ種約一〇種を使ったワインがとくに売れている。野性的で荒めの味で知られているイルレギー種を使ったレア・ワイン、Donibane-Irouleguy、栽培が難しいが五〇年の熟成に耐えるタナ種だけで醸造されたルビーのような深い味のMonAdourといった、新しいワインを醸造して、保守的なワイン業界に新風を吹き込んだ。http://www.osmin.fr/
(ぷらどなつき・パリ在住)
2013年特別号上掲載

月刊 酒文化2013年07月号掲載