音楽とワインの微妙な関係

 ブルゴーニュワイン祭りでは、毎年、40歳以下の才能ある若者を対象にしたブドウ栽培者・ワイン醸造者コンクールを開催している。昨年は6人が入賞したが、そのなかのひとりにドメーヌ・ジェシオウムの跡継ぎ、弱冠23歳のジャン=バティスト・ジェシオウムがいる。
 サントネーに位置するこのドメーヌは1850年創設。オークセイデュレス、ヴォルネー、レ・ブルイヤールなどに14haの畑をもっている。サントネーのなかでも最良の地といわれるレ・グラヴィエール・プルミエクリュには5haを所有している。
 ジェシオウム氏は11歳からサッカー選手になることを夢見て、定評あるサッカークラブ、オクセールの養成所に入所。19歳でサッカーをやめ、家業のワイン醸造を継ぐことにした。ものごころついた頃から、叔父や父と一緒にブドウの木を切り整えたり、収穫を手伝い、遊びで自分のワインを醸造していたりもした。
 ジェシオウム家の5代目にあたるジャン=バティスト氏は、一風変わったワイン造りを試みている。カーヴ(ワインの貯蔵庫)のなかにオーディオシステムを設置し、モーツァルトを樽のなかの白ワインに聞かせているのだ。「音楽の振動が、バクテリアや水成分に影響を与えることがあるのは周知のこと。それではブドウのなかにある天然酵母にも効果があるのではと思い、ワインにも音楽を聞かせてみた。そして、醸造学者といろいろテストしてみた結果、モーツァルトの『小夜曲』周波数が良いみたいだ」と言う。
 眉唾のような感じもするが、本人はいたって本気。「すべての樽で発酵が中断することなく、スムーズにいくようになった。赤ワインでも試してみたい」という。現在、熟成中のミレジメ2012(2014年に発売予定)は、先物買いにきたスペシャリストの間でも大好評だったそうだ。
 では、音楽がワインを飲む人に与える影響はどうだろう? 『British Journal Psycology』という雑誌で、次のような研究が発表されている。Herriot-Watt大学では学生250人に赤ワイン、アルファ2005 カベルネ・ソヴィニヨンと白ワイン、チリ産シャルドネを飲ませた。
 学生たちは4つのグループに分けられ、各グループはそれぞれ違う1曲を約15分間聞きながら試飲した。
 結果は興味深いものだった。学生全員が同じワインを飲んだにもかかわらず、重厚なコーラスが多いカール・オルフのカンタータ、「カルミナ・ブラーナ」を聞きながら試飲したグループのほとんどの人が「力強い味」と答えたのに対して、チャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」の中の「花のワルツ」を聞いたグループでは「繊細な味」と答えた人が多かったのだ。ワインの味いかんは、音楽に大きく左右されるというのが、このテストの結果である。
 フランスのある程度以上のレストランでは、音楽がかかっていない。おいしいものを食べ、飲むときには、集中して味わえということではないだろうか。
(ぷらどなつき・パリ在住)
2013年夏号掲載

月刊 酒文化2013年07月号掲載