ワイン販売、レストラン側のアイデアいろいろ

 フランスでも、ワインがグルメ文化のなかでもっとも重要な座を占めるようになったのは1960年代以来のことらしい。しかし、まともなレストランでワインを頼むと高いという印象があり、以前は、おいしい料理を食べたいならレストラン、ワインを安く楽しみたければbar à vinへ行ったものだった。しかし、経済低迷の激しい今、激しい競争に生き残るための工夫として、充実したワインリストを手頃な値段で提供するレストランが増えてきている。
 モンパルナス界隈のLe Petit Sommelier de Parisは450種類のワインをそろえており、AwardやWine Spectatorの賞を得ている。伝説のシャトー・ラヤ2000年の190ユーロから、マ・ジュリアン47ユーロまで、そのうえアルマニヤックやコニャックのミレジメが30種類も揃う。伝統的フランス料理のほか最優秀職人賞を受けたチーズ職人のエルヴェ・モンのチーズもあり、パリのワイン好きの間では定評ある店だ。
 パリの2店とリールに1店ある Le Vin qui danseもおもしろい。2007年に開店した店で、アントレ、メイン料理、デザートのそれぞれにソムリエのおすすめワインがついたメニューを出している。「従来のデグスタシオン(ワインのテイスティングにおすすめの小皿料理コース)にありがちなエリート的、通だけという閉鎖的な雰囲気とは違う、カジュアルなワインの楽しみ方を提供したい」ということだ。また、ワイン生産者となるべく直契約することで安価格におさえ、ワインボトルを買って持ち帰りすることもできる。
 レストランでのワインの価格に憤慨するフランス人は思いのほか多く、「あのレストランはワインで儲けている」というのはよく聞く悪口だった。しかし、カーヴをもつにあたっての賃貸料や税金を足すと結構な金額になるという店側の言い分もまったくでたらめというわけではない。近年、レストランのワインリストから古くて高価なミレジメものが消えたが、オーダーする人が少ない稀少価値のあるワインを保存するより、商品の回転を早くして利益をあげることが、店側の第一目標になってきている。
 ナルボンヌのLes Grands Buffets は29.9ユーロで200種類のフランスの伝統料理を食べたい放題という一風変わったレストラン。ワインはラングドック・ルシヨン地方のものだけで70種類あり、生産者価格で提供というのが店側のポリシーだ。すべて、グラスで頼むこともできるが、ボトルで飲みきれなければテイクアウトもできる。また、ワインの6本入り箱を持ち帰り用に買うと、テーブルで注文したワインボトルは無料。ワインリストには、「女性むけ」、「フルーツの香り、軽め」、「こくがある」などと説明をつけ、選びやすいようにするなど、多大な工夫をこらしている。
 支配人ルイ・プリヴァは「通常、レストランではワインに原価の3倍の値段をつけるが、高くてたいしたことないワインはたくさんある。私の店では、料理は食べ放題、ワインは生産者価格で出すことにし、客数は毎年24万人。毎年、35万本から50万本のワインボトルの売上をあげている。家庭でもレストランでもワインの平均消費量は年々下がっているが、うちの店ではそういうことはないよ」と言っている。
 12月1日から31日にかけて、Carte sur tableという催しものがパリの19のレストランで開かれる。これは、ボルドーワインの優れたものを一流レストランでというもので、期間限定でボルドー・ファンを惹きつけようというアイデアだ。また、タイユヴァンのブラッスリー、Les 110 de Tailleventでは、110種類のワインがグラスで飲める。メニューには、料理一品ごとにおすすめのワインが、価格が違うもの4点ずつ記してあり、140mlか70mlのグラスで飲むことができる。レストラン側がここまでいろいろ新しい努力ををしているのをみていると、経済低迷も悪くないなと思う。
(なつき・パリ在住)
2014年冬号掲載

月刊 酒文化2014年02月号掲載