第2回サロン・デュ・サケが、大盛況のうちに閉幕

サケに関心を向け始めたパリジャン
 シルヴァン・ユエ氏は、武術を通じ日本文化に、そして日本酒と出会う。米人日本酒伝道師のジョン・ゴントナー氏が指導するアドヴァンスド・サケ・プロフェッショナル・コースを受講し、大阪の大門酒造での日本酒づくりも体験する。フランスでの日本酒の地道な普及活動が評価されて、2012年には日本酒造青年協議会から「サケ・サムライ」の称号を叙任。このニュースはフランスの業界紙や新聞に取り上げられた。その後、『酒オロジー(酒とガストロノミーの造語)』を学ぶ場所を提供するべく「アカデミー・ドゥ・サケ」を2013年創立。自ら教壇に立つだけでなく、蔵元と協同での試飲会も企画、日本酒の輸入・販売のコンサルタントもするようになった。そんな彼がこの秋に日本酒の総合展示会「サロン・デュ・サケ」をパリで開催した。
 何十年も前から日本料理店や日本食材店で日本酒の扱いはあったが、以前のユーザーはほとんど日本人だった。フランス人にとってsakeは、アジア系レストランで底に女性が見えるおちょこで振舞われる白酒(中国の蒸溜酒)だった。
 2012年、日本政府が「エンジョイ・ジャパニーズ・国酒」キャンペーンを打ちだし、これに応えたのか2013年にはフランスの国会議員数人で「酒の友協会」が設立された。寿司、日本映画、禅のブームなどが呼び水になって、ここ数年はサケにも関心が向かられるようになった。2012年と2014年のフランスの日本酒の輸入量は前年を66%増と好調、トップ・シェフたちの和食文化への興味が上昇とともにいい状態のサケに触れる機会が増えている。

試飲&文化で切った多彩な酒セミナー
 サロンは、サケと日本の飲料を集めた試飲、研究会の様相で、2013年に続き2回目である。エッフェル塔の麓、日本文化会館至近のビジネスショー会場を使い、10月最終週末に2日間開催された。開場前から列ができ、会場は沢山の好奇心あふれるフランス人で溢れた。公式ガイドブックの冒頭には、びっしり3ページにわたって酒の説明が掲載されており、出展者の紹介やプログラムに続いて、巻末には約300種類のサケリストが掲載されていた。酒の詳細なプロフィールが記載され、ひとつひとつに感想を記入できるノートになっている。
 今回は広島県がゲスト・オブ・オーナーである。長いブースに賀茂鶴酒造や賀茂泉酒造など9蔵が出店して、自慢のサケを並べた。北海道(4酒蔵)と香川県(2酒蔵)もブースを出していたが、都道府県でまとまってブースを出すと同じ産地でも蔵ごとに味が違い、バラエティに富むことを体験する機会になる。ほかにも著名な酒蔵が並び、どれを飲んでもらっても、「サケは美味しい」と思ってもらえたようだった。
 期間中、会場で開催されたワークショップや講演は21に及ぶ。月桂冠総合研究所長の秦洋二氏とパリの有名料理学校コルドン・ブルーの教育長ディディエ・シャントフォール氏による「サケとガストロノミー」をテーマした講演のほか、「サケ・ヨーロピアン・サミット」では欧州8カ国で活躍するサケのプロが集まり、各国の酒事情が報告された。「漫画とサケ」、「サケと絵画」など文化面からの切り口のプログラムもあり、「狂言におけるサケの注ぎ方と飲み方」では和泉流狂言師の小笠原弘晃氏による実演が関心を惹いた。

体験ワークショップは大人気
 そして特に注目されたのは「サケとアコール・メ(味の調和)」と題された4つの有料ペアリング体験ワークショップだ。「サケはどんな料理に合わせたらよいのか?」というテーマは、フランス人がもっとも興味あるものだ。そのひとつ「不可能な調和」の会では、ワインとでは比較的マリアージュが難しいとされる苦味のあるスープに、純米大吟醸酒を合わせた。参加者は口の中で双方が互いの味を尊重しあうかのように、まろやかに溶け合う感動を得たのではないだろうか。料理人やソムリエが大勢参加していたようで、真剣にメモをとる姿が目立った。
 ほかにチョコレートと合わせる「サケとスイーツ」、「祝いの席の食卓」ではキャビアにサケを合わせ、「チーズとサケ」の会では著名なパン職人のパンとチーズとサケのベスト・マリアージュが経験できた。どのワークショップも、驚嘆と賞賛の表情で溢れ、皆、満足顔で散会していった。
 今回のサロンには2日間で約2700人が参加した。そのうち飲食関係のプロ、ソムリエ、酒販関係が6割を占め、国際感覚あふれる学生やホテル関係者の姿も多かったという。
 これからもっとサケに親しんでもらうには、サケへの誤解を解き、どんな飲料かを理解してもらい、魅力的な飲酒の提案ができるプロを育てることが欠かせない。ユエ氏の「アカデミー・ドゥ・サケ」のような教育活動だけでなく、ワインバーやカーブ(ワインショップ)でおこなわれるような、プチ試飲会が今後増えていくだろう。
 すでに来年の第3回開催を計画しているというユエ氏。サケへの興味は尽きることなく、酒蔵を訪ねて一軒一軒の個性と、サケの千差万別なキャラクターを知ることが、最上の喜びのようであった。
(ともこふれでりっくす・パリ在住)
2016年冬号掲載

月刊 酒文化2016年02月号掲載