プロシュート・クルード

 プロシュート・メローネ(生ハムメロン)は夏の前菜の主役である。生ハムとは、一般的に塩漬けにして乾燥、熟成させた豚肉のことで、名前のとおり加熱していない。「プロシュート・クルード」と呼ばれ、何世紀もの歴史を持つ、イタリアの食肉加工品の中でも高貴な製品である。その加工方法はシンプルで、塩を選別された豚のもも肉にもみこみ、一定の期間静置してからぬるま湯で洗い、長い熟成工程に移される。ハムによって異なる熟成期間の後に食卓を飾る生ハムの最も優れたものは天然塩のみを使用し、数ヶ月から数年をかけて出来るものである。イタリアでもっとも好まれて食べられている生ハムは、パルマ産とサン・ダニエーレ産のハムである。これらの地域は生ハムの熟成にとくに適した気候風土をもっており、品質と原産地が保障されている。
 プロシュート・ディ・パルマ(パルマ産生ハム)は、パルマ地方に伝わる伝統的な技法で作られ、芳香な風味とまろやかな味が特徴。パルマハムは、独特な気候、風、湿度を誇るパルマの南部の丘陵地帯でのみ生産される。
 サン・ダニエーレは、パルマに並ぶ産地だが、生産量としては少ない。生っぽさは少なく、穏やかな塩気が特徴。冬期の冷涼な空気と風という、生ハム作りには最適な条件が揃っているフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州のアルプス山脈に囲まれた丘陵地帯で一二〜一四ヶ月熟成させて作られる。ハムは切り立てが一番で、イタリアのスーパーで買うときは棚の上に並ぶ骨付きもも肉から好みによって切ってもらうのが普通。一口に生ハムといっても、塩辛くてコクのある熟成のすすんだアメ色のものから、柔らかくてより生っぽく薄塩の熟成の浅い薄桃色のものまで色々ある。また、切り方も料理や好みに応じて、機械で超薄に切ってもらったり、ナイフですこし厚めにそぐように切ってもらったりする。スライサーの薄切りが好む人がが多いが、「絶対手切り」派も少なくはない。
 栄養価が高く、かぐわしい香りをもったイタリア産生ハムは、デリケートな味わい、低塩分、すぐれた風味と芳香が特色である。果物はもちろん、どのような種類のパンやグリシーニ(ピザ生地棒)にも合う、食事のスタートにはかかせない一品である。生ハムをはさんだパニーノ。イタリア人たちはみんな大好き。生ハムメロンは定番だが、ハムとイチジクも絶妙の味。果物と一緒に食べると、果物の甘味が増し、生ハムの塩味も和らぐため、相性のよい組み合わせである。そのほか、パイナップル、パパイヤ、マンゴーのような南国フルーツにもよく合う。数多くの料理の材料としても使われている。
 お酒との相性だが、パルマ産は、コッリ・ボロニェージ、コッリオ・ピノ・ビアンコ、コッリ・エウガネイ、マルヴァジアのような白ワインやプロセッコのようなスパークリングワインが最適である。辛口の軽いロゼワイン、赤ワインならピノ・ネロのような軽い赤ワインも薦められる。地元のワインと一番相性がいいと言われるが、外国のワインやシャンパンとも合わせやすい食品である。
サン・ダニエーレハムとは、同州のソーヴィニョンや香り豊かな個性のトカイ・フリウラーノが最適とされる。通の間ではサウリスの生ハムやノルチアの生ハムのような、生産量の少ない地方生産の生ハムが人気上昇だ。皆さんも夏の食卓にお試しあれ!
(シェイラ・ラシッドギル コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2007年09月号掲載