ポルチーニ狩りにフィオレンティーナ

 先月は仕事で足を運んだトスカーナに、おいしいものをゆっくり満喫しようと思い週末もとどまることにした。フィレンツェのあるトスカーナ州は、豊かな自然の恵みがあり、良質な食材を活かした料理が絶妙においしい。
 伝統的なトスカーナ州の料理は、今でも獲れる新鮮なイノシシ、ウサギなどの野生の肉を使った料理や、内臓料理または豆料理などが有名である。
 トスカーナの秋の味覚といえばポルチーニ茸。丁度私が行った数日前に雨が降っていて、生えているだろうと思い、キノコ狩りの名人の友人がフィレンツェに住んでいることを思い出した。ポルチーニシーズンを堪能するために、久しぶりに山にキノコ狩りに行くことに決定。周りの木の葉っぱや土の中にしっかり隠れているので、見抜く目を持っていないと見つけられない。友達のお陰で中に大きなキノコもあった。総計約1キロのポルチーニときれいなオレンジ色のオーヴォリ茸を収穫できた。
 喜び勇んで近くのレストランに持って行き、それを使った料理を作ってもらった。アンティパストの鶏レバーペーストのクロスティーニの後に、ポルチーニとは別の美味しさを持つオーヴォリ茸(タマゴダケ)を薄くスライスして、塩、コショウ、オリーブオイルとレモン汁で味を調え、生で食べた。トスカーナ郷土料理のキャベツや豆など入ったスープ、リボッリータも好物なので、プリモピアット(ファーストディッシュ)にかなり迷ったが、折角自分で採った茸だったから、ポルチーニを使った料理にした。土や森を連想する香りを持つポルチーニのしゃきしゃき、しっとりとした食感を楽しめるように手打ちパスタのタリアテッレに絡めてもらった。イタリア茸の王様ポルチーニは、パスタ、リゾット、カルパッチョ、ビーフヒレのステーキのソースなどと使い道の幅が広い。トスカーナはポルチーニのほか、ピエモンテに次いでトリュフで有名な地方でもある。トリュフの味をシンプルに楽しむために手打ちパスタに乗せたり、また目玉焼きに乗せたりする。
 この日レストランに新鮮な白トリュフも入っており、パスタに乗せて味見した。すこぶる新鮮なだけあってパリッとした感じと噛むとふわ〜っと強く広がるあの香りが印象的。気になる値段だが、今年はお店から買うと1キロはなんと4000ユーロ程度だそうだ。ワインはトスカーナのカルミニャーノDOCGのワインにした。豪華な気分になり、セカンドにフィレンツェ風Tボーンステーキ、ビステッカ・アッラフィオレンティーナを注文した。これはトスカーナ州で生育されている白い若牛、キアニーナ牛。これの骨付きの部位を炭火で焼くと、ジューシーでやわらかく、そして、さっぱりして絶品の味。お肉に合わせたワインは心地よいスパイス風味の旨みを持つヴィーノ・ノービレ・ディモンテプルチャーノ。
 こうしたトスカーナの肉料理に一番合うのはやはりトスカーナのワイン、サンジョヴェーゼを主体としたブルネッロ・ディ・モンタルチーノやキャンティなどである。本来トスカーナのワインづくりの品種は土着品種のサンジョヴェーゼだが、世界的に人気の高いカベルネ・ソーヴィニョン、メルロー等、外国種の栽培にも積極的に取り組み、それらとサンジョヴェーゼとブレンドしたワインが増えている。また、高品質のスーパートスカーナの国際的な名声に影響され、本来の伝統派ワインも質の向上に向けたブドウづくりをさらに発展させ、今まで無名だった小さなワイナリーの中からもスーパートスカーナレベルのワインが続々と出ている。
(シエイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2008年01月号掲載