イタリア人が飲むワインの量

 現在イタリアでは、合法飲酒年齢は一六歳で、日本や米国よりはもちろん、平均合法飲酒年齢が一八歳であるヨーロッパ諸国よりも低い。先月、イタリアの厚生省が アルコール類の一八歳未満の少年達への販売禁止政策の法案を検討したいと発表した。既に飲酒運転の罰則や罰金を引き上げ、飲酒テストの実施回数増加、バーなどの深夜二時以降にアルコール類の販売を禁じるなど、様々な飲酒運転取締り対策を実施しているイタリア政府だが、こういった交通安全キャンペーンにも関わらず、四〇歳以下の若い男性の死亡原因の第一が飲酒運転である。
 イタリアで、最近複雑な現象が見られる。若者のワイン離れはがますます進んでいる一方、特に未成年や若い人の飲酒は社会問題として深刻していっている。
 七〇年代に一人当たり九三リットルのワインを消費していたが、今日それが五〇リットル以下にまで減少している。この減少は消費者の意識が高まり、量は減少したが質の良いワインを飲むようになったというように解釈された。
 こうした変化を取り巻く状況は単純ではない。なぜなら、今はワインの黄金時代という側面もあるからだ。イタリア人は現在ほどワインに注目したことはない。本やメディアも大きく扱っている。ワインの研究に力が入れられ、質も日々改良されている。今の三〇歳より上の世代はワインに関心をもっている。その一方、生活様式の変化とともに、かつてイタリア人の食の欠かせない一部だったワインが今では余暇を楽しむための飲み物となった。日常的に飲むものから、時々しか飲まない飲み物に変わった。そこには経済的や社会的な要因も影響している。
 先日ソムリエが大勢に参加した夕食会に誘われた。話題はもちろんワイン。「イタリア人は毎日ワインを飲んでいて凄いね」、「仕事中の昼休みにレストランでワインを飲んじゃうなんて、イタリア人は信じられない」と、日本人のイタリア人のイメージはどうしても「イタリアはワインを大量に飲んでいる!」という方向に偏りがち。しかし、ソムリエの話を聞くと、試飲会など特別なイベントを除いて、通常一度に飲むワインの量はせいぜい一杯、つまり二〇〇mlぐらいだそうだ。ふだんは飲まない人もいて、夕食と共に一杯を飲むのが一般的であり、ワインのことが好きで、少し詳しいイタリア人にも当てはまると言う。
 ワインを数本同時に開けて、冷蔵庫に保存し、少しずつ飲みながら、開栓後のワインの味の変化を確認するのもワイン通の一つの楽しみ方である。最近発売されている開栓したワインの酸化を防ぐための専用グッズも味方である。
 ワインを知っている人なら、量より質を優先し、二〜三ユーロのワインを一回で一本飲むより、八〜一二ユーロの良質のワインを三〜四回に分けて楽しむ傾向が明白である。
 イタリア全体の傾向だと言い切れないが、ワインに詳しく、賢い飲み方をしているイタリア人は、ワインを控えめで、質を大切にしながら飲んでいると感じる。
 その一方で、ワイン教育をされていない若い消費者もだんだんと増えている。彼らにとってワインは複雑すぎるらしい。今後この若い世代にもこの知的なワインの飲み方を教える方法を考えなければいけない。のだろう
(シェイラ・ラシッドギル コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2008年03月号掲載