イタリアの自家製リキュール

 最近は秋が深まり、涼しくなってきたこともあり、イタリア人の殆どがこれからの週末は両親や友人を交えて家でのんびりと、マンマが愛情を込めて作ってくれる家庭料理を楽しむ。
「食」が家族や社会の生活の基本であるイタリアでは、食にかける情熱は食事とその準備に費やす時間にもよく現れている。忙しい毎日の生活に追われても、家でジャムやペーストのようなパスタソース、野菜のオイル漬け、ピクルズ、リキュールなどを作っている人はまだまだたくさんいる。とくに食後にエスプレッソに欠かせない食後酒のリキュールを家で作る家庭は少なくない。
 ワインだけでなく、食前酒・食後酒の歴史が長いイタリアは、リキュール天国である。基本的にイタリア語のリクォーレ(リキュール)はアルコールに果実の実や皮のようなほかの部分、薬草などの材料と砂糖を加えて、非熱処理や熱処理によってできた酒のこと。ブドウや果物、小麦などの発酵液を蒸溜した香味豊かなスピリッツとは区別される。ちなみグラッパは、ブドウの絞りかすで造る蒸溜酒である。
 薬用酒として生まれたとされているリキュールは、原料によって大きく四つに分類されている。レモン、メロン、苺、チェリーなどのような果実系、ハーブ、スパイス類などの薬草・香草系、ナッツやカカオ、杏子の核など種子・核系とクリームや卵を含むリキュール。この中で造り方がもっとも簡単で、イタリアで一番自家製が多いのは果実系である。自家用リキュールはアルコールと砂糖が基本だが、アルコール度数や甘みを調整したり、ちょっとした工夫で味をおいしくしたり、家庭によって作り方が様々。一般的な柑橘類のリキュール、リモンチェッロ(レモンリキュール)やアランチェッロ(オレンジリキュール)の作り方は至って簡単、小さめの六個の無農薬オレンジやレモンの皮の黄色い・オレンジ色の部分だけを剥く。それ(皮)を九〇度以上のアルコール一リットルに一週間ほど漬けて、その後皮を取り除く。沸騰した水一リットルに、好みによって砂糖七〇〇〜九〇〇gを加えて溶かし、冷ましたところに皮を漬けたアルコールを合わせ、涼しいところで一〇日間以上に保存すると出来上がり。
 地域によってフラゴリーノ(苺リキュール)、イチジク酒、ビワ酒、リクイリツィア酒(天草酒)、ローリエ酒、バジリコ酒、ジネプロ酒(ビャクシン酒)、ジェンツィアーナ酒(リンドウ酒)が好まれる。
 そして胃の消化を一番助けるとされているハーブや薬草のリキュールの人気も高い。その中に日本でもよく知られているフェルネット・ブランカやラマゾッティのようなほろ苦い薬草系リキュール「アマーロ」や、イタリアではサルディーニャ島にしか生息しない植物ミルト(天人花、てんにんか)の実から作る、綺麗な紫色のお酒、ミルト酒がある。
 リキュールはそのまま飲んでも、コーヒーに入れたりカクテルやデザートに使用したりしてもおいしい。私が最近友人の自家製のものをもらって、週末の夜にリラックスしながらゆっくりと楽しむんでいるのはノチーノ(青い胡桃のリキュール)である。こくがあって、かすかに胡桃の味がする絶品のリキュール。こういったナッツ系のリキュールは、これからちょっとひんやりとした季節にぴったりだと思うのだ。もちろん、暑い時期にアイスクリームにかけていただくのも美味しいのだが。
(シエイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2007年12月号掲載