ピザ

 イタリア食文化の代表格のピザは、現在でもイタリア人の日常生活の中で圧倒的な存在感を持っている。ナポリ発生とされている現在のマリナーラ(トマトソース、にんにくとオレガノ)とマルゲリータ(トマトソース、モッツァレラチーズ、バジリコ)のイタリアンピザは、実は古代のジェノヴァやバリ風のフォッカーチャに由来しているという。19世紀までナポリのものだったピザは、第二次世界大戦後に世界に広がりを見せた。フォッカチア、包むタイプのカルツォーネ、フライパンかオーブンで焼く小さな包みピザパンゼロット、平パンを使ってオーブンで焼いて切り売りのピザなどとピザの種類は地域によって数多くあるが、普通の円盤状のピザはナポリ風とローマ風に分けられる。パン生地がしっとり、もちもちしているナポリピザに対して、ローマのピザはパリパリ、クリスピーな生地が特徴。もちろんイタリア人に言わせると具がたっぷり載っている厚いアメリカ式のピザはピザと呼べない。
 イタリアのピザ屋さんのメニューは意外と伝統的で、シンプルのマリナーラとマルゲリータの他、ディアヴォラ(モッツァレラ、辛いサラミ、バジリコ)、ロマーナ(トマト、アンチョビ、モッツァレラ、オレガノ)、カプリチョーザ(モッツァレラ、アーティチョーク、キノコ、ハム、オリーブ)、プロシュット・エ・フンギ(マッシュルームと生ハム)、クアトロ・フォルマッジ(モッツァレッラのゴルゴンゾーラなど他三種のチーズ)を必ず見かける。季節によって旬の野菜やポルチーニキノコ、地域のサラミやチーズを使ったりするが、常に具と生地のバランスを考えて、具を混ぜすぎることは殆どしない。
 家族や友達と食事を楽しむ簡単な方法として、ピザをピザ屋で食べる人気は時代が変わっても劣らない。忙しい毎日を送るなか、立ち食いや持ち帰りできるファーストフード的な切り売りのピザにも人気店・不人気店があり、お昼ひと切れかふた切れのピザと1個のスップリ(ライスコロッケ)を食べれば満足できる。ピザは熱いうちに食べるのがイタリア人の第一信条であり、ピザ屋さんで先に全部カットしてくれる習慣がない。同じ理由でイタリアには宅配ピザも少なく、ピザはピザ屋で食べるものとされている。
 イタリアでピザと一緒に飲むのはビールかコーラ。ワインと相性がよくないというイメージが強く、ワインとピザを楽しむ人はまだ少ない。
 イタリアの人々によって守られ続けているピザだが、ナポリには「真のナポリピッツア協会」があり、「本物のナポリピッツア」と呼ぶための厳しい条件を設けている。また、2004年には真のナポリピッツァはEUにおけるSTG(伝統的調理品保証)の1つに登録され、世界標準にまでなった。本物のナポリピッツァと呼ばれるには、生地に使用する材料は、小麦粉、水、酵母、塩の4つのみ。窯の燃料は薪もしくは木くずとするなど条件があり、上に載せる材料はエキストラ・バージン・オリーブオイル、トマト、チーズとバジリコしか使用できない。
(シエイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2007年11月号掲載