イタリアの酒飲みイベント

 ワインが大好きなイタリア人だが、いつもワインをがぶ飲みしているわけではない。結婚式や誕生日のイベントでは大騒ぎするけれど、ワインを飲むのは基本的に料理を楽しむため。ウィークデーの昼食でもワインを欠かさない人も、大半はワイングラスに軽く一杯飲むだけだ。飲む頻度は高いが、一回に飲む量はそれほど多くはないのである。ワイン大国でおおらかで明るい国民性だから、いつも飲み騒いでいるというのは誤解だ。イタリアでは年始年末の飲み会シーズンでも、大騒ぎして酔いつぶれたおじさんを見かけたことがない。
 家族の結び付きが強いイタリアでは、毎週、家族揃ってゆっくり食事会をする。クリスマスやイースターのような重要な行事は、必ず家族と過ごす。クリスマスイブに魚料理を食べるので、白ワインを飲むのが定番だ。クリスマス当日の昼食は子羊料理が伝統だから、その相性のよさから赤ワインの出番となる。そして年越しパーティではスパークリングワインやシャンパンを飲んで新年を迎えることが多い。
 ナターレ(クリスマス)、カルネバーレ(謝肉祭)、パスクア(復活祭)とキリスト教のお祭りが多いイタリアで、ちょっぴり異色なお祭りがある。筆頭は3月1日の国際女性デーである。この日は女性同士だけで集まり、お酒を飲んだり遊んだりする。もうひとつは5月1日のメーデー。イタリアでは労働者の日として、郊外や町の公園でピクニックする習慣がある。チーズやサラミをつまみにワインやビールを飲みながら、労働者の休日を過ごす。
 他に酒を飲む機会はサッカー観戦があげられる。イタリアでのサッカー熱はご存知の通りで、自宅やバーのテレビの前でセリエAの試合を楽しむ際には、ビールを片手に友達と一緒に好きなチームを熱狂的に応援する。
 ビールと言えばピザの時はなぜかビールになる。イタリアでは少なくとも週に一回はピザ屋で外食するが、不思議なことにワインでなくビールを飲む。
イタリア人は夕食会やホームパーティをよく開く。テラスやバルコニー、庭がある人たちは春から遅い秋にかけて野外で飲んだり食べたりする。かつては町のあちこちにある広場で、いつも誰かと集まっていた伝統からか、今でも外で集まってお酒を飲むことに目がないのだ。冬がそれ程寒くないローマやフィレンツェでは、多くのカフェやレストランは冬季でも、テラス席を用意している。
 夕食の時間が日本より1〜2時間ほど遅いせいか、イタリアでは食事の前に軽く一杯飲んでちょっとしたものを摘みながらくつろぐアペリティーボという習慣がある。ドリンク代だけで、カウンターに並ぶ軽食が食べ放題というサービスだ。酒はスプリッツがよく飲まれる。赤いリキュールの『アペロール』か『カンパリ』に、白ワインを加えてソーダで割るというシンプルで軽いカクテルで、北イタリア、特にヴェネト地方では、「食前酒=スプリッツ」といっても過言ではない。ローマでは、スパークリングワインの「プロセッコ」やビール、モヒート、ワインなどバラエティが少し広い。
 イタリアでは社交に酒は欠かせない。何もなくても酒を飲んでわいわいと話すが、何か理由があるともっと盛り上がる。飲む理由をいつも探しているのは日本もイタリアも変わらない。
(しえいららしっどぎる・ローマ在住)
2016年春号掲載

月刊 酒文化2016年03月号掲載